第16話【〝ストーカー〟発言】

『高二女子・仁科美愛から見える光景』


 東王東高等学校の校門がわたしの視界に入ってくる。校門前に人影。緊張する。しかしそれは村垣先生だった。でも安心はできない。教員の不祥事もこのところ多いし。


 わたしは距離をとり自転車を止め、そして降りる。いざとなったらこれを捨てて走りだそう。先生がこっちに気づいたようだ。先生の手にはなぜか懐中電灯。それをぐるぐる振り回している。


「仁科か、こっちに来て校門前に立っていてくれ」

 そう言った先生自身は校門の中へと入っていった。わたしはおそるおそる校門前へと歩いていく。校門前に立って心の中で『あっ』と叫ぶ。


「みーしゃっ!」

 かなりの距離を挟んでだが、そこには先生の持った懐中電灯に照らされた〝みーしゃ〟の顔が確かにあった。

「〝みあーっ〟、さみしかったよーっ」

 〝みーしゃ〟の声がすっかり夜のとばりが降りた学校に響く。ゆらゆら小刻みに揺れる懐中電灯の光に変なものが照らし出される。〝みーしゃ〟は両手にあの剣を握っていた。


 あの剣、抜けたんだ——

 どれだけ引っ張ってもびくともしなかったあの剣がどうして——


 〝みーしゃ〟はわたしに正対している。なのにわたしは学校の敷地内に踏み込む勇気を失っている。


「事件が起きたら警察でしょう?」わたしはとっさに言っていた。

「警察の方、出番ですよ」先生が不機嫌そうな声で言った。すぐに光の届かない陰から制服姿の警官が一、二歩、三歩、四歩と前へ前へ前へと進み出て、遂にわたしのほんのすぐ目の前に立った。なんでこんなに手際がいいの? まさか偽物?


「本官は中司巡査です」そう言った警官は警察手帳、即ち身分証をわたしに示した。

「見えますか?」と言ってその身分証をわざわざ懐中電灯で照らしさえした。そうしていつまでも出し続けたままにしている。

 まるでわたしの内心を透かし見ているように思う存分に確認させているといった感じ。おかげで中司巡査の名前が『永一』であることまで確認できてしまった。


「分かりました」とわたしが言うとようやく警察手帳を引っ込めた。


 まだ誰かいる。

 薄暗さに目が慣れてきた。そこにもう一人、人がいることに気がついた。


「ああ、彼か」と警官が言う。さらに続けて「こっちに来てくれ水神君」と言う。

 そいつが光の届くところに出てわたしは心の中で再び『あっ』と叫んだ。

 見覚えがある。ウチのクラスの前の廊下を特に用事も無さそうなのに毎休み時間ごとに往復しているヤツだ。


 わたしはソイツの目的にも心当たりがあった。思わず口に出た。

「〝みーしゃ〟に付きまとってるストーカー‼」

 はっきり音声となって声に出てしまった。だけどそれはどう考えても間違いない。何度も廊下ですれ違っているし、すれ違うときその全てで必ず〝みーしゃ〟の方に視線を向けている。どんなに一瞬でもわたしは気づいている。一回一回は一瞬でもその積み重ねた数は不自然すぎるほどだからだ。


 しかしそれを聞いた〝みーしゃ〟は抜けたものだった。


「え? わたし今日初めて会ったんだけど」

 先ほど嫌というほど警察手帳を見せつけた警官が冷徹にわたしに言った。

「軽々しいことを言うもんじゃありませんね。対象とされているはずの本人が気づかない状態では規制法の構成要件を満たしませんよ」

 それはわたしに対する嫌味であるに違いなかった。

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