第15話【下着を持って学校に来て欲しいってなんなの】

『高二女子・仁科美愛から見える光景』


 わたしは何度も何度も学校に電話をしていた。あの先生から掛かってきた電話はなんだったのか。もう誰もいないのか誰も出ない。〝みーしゃ〟のスマホも相変わらず不通。しかし電話を掛ける先を交互に交替しながらかれこれ三十分近く同じことを続けている。


 いったい学校に掛けた何度目の電話か、呼び出し音1回半で電話が繋がった。出たのは先生だ。

「お、仁科か、丁度よかった。こっちから電話をしようと思っていたところだ」

 わたしが何かを言おうとしたがすぐ先生が続けてものを言ってきた。

「深見の件でな、今から学校に来て欲しいんだ。こんな時間だから無理は言えないのは分かっている。でも深見本人の頼みでもあるんだ。もし、来られるのなら……その……替えのスカートと下着を持ってきて欲しいという話しなんだが……」と気まずそうに語尾が消え入った。

「それってわたしのですか?」

「できれば深見の家に寄ってくれればありがたいが、できないならそういうことになってしまう……」

 さらに大あわてで付け足す。

「あっ別にこれはその、だ。変質的目的があるわけじゃないんだ。そこだけは勘違いしないで欲しい」

 ようやくわたしは何か言う間を持てた。

「グランドに刺さっていた剣とみー、いや深見さんが関係があるんですね?」

「……知ってたのか。なら話しが早い。ヘンな事件が始まってるんだ」


 これはどういう表現なの? 普通『事件が起こる』って言う。

 事件が始まるって何? 村垣先生が国語の先生だから? だから文学崩れ的な表現になるの? しかも下着を持ってこい、って何? これこそ事件の始まりじゃないの?

 結局、先生からの電話はわけも解らず〝生返事〟をしたまま切ってしまった。


 これからどう動けばいいの? 行動しなければ安全だ。しかし後悔しそう。〝みーしゃ〟を見捨ててしまったという後悔が。〝みーしゃ〟は友情が一年半以上も続いているわたしの希有な存在。



 わたしは最初、簡単に友だちをつくれる。四月の恒例。それは『たまたま』な外見のせい。『友だち』に言わせると凄く美少女ってことみたい。だから最初はみんなが勝手に寄ってきて『友だち』ができる。声を掛けられればわたしも嬉しい。だからわたしも返事する。どうやらその返事が『友だち』を喜ばせるみたい。当たり障りのないことを言ってるだけなのに『誰にも分け隔て無く』って思われるみたい。


 でもそんな状態が続くのは最初の二週間くらい。時間が経つと必ず言われることがある。『つまらない』って。いつもそう。勝手に寄ってきて勝手に『つまらない』なんて。


 〝みーしゃ〟もまた四月に勝手に向こうから寄ってきた中のひとり。高一にもなると今まで何度となく繰り返された結末をあらかじめ予想してしまって〝みーしゃ〟にも特別なにも期待していなかった。だけど予想は外れてくれた。〝みーしゃ〟は違っていた。


 『その見かけは女優だよ』とか言って演劇部に引き込んだのも〝みーしゃ〟だ。たぶんこれも『たまたま』なんだろうけど、ここはわたしにとても合っていた。もう『つまらない』と言われてもなんともない。台本の通りにわたしは動いているだけだから。


 それに〝みーしゃ〟自身が他人におもしろさなんて求めてないコだから。勝手にいろいろ喋って勝手にいろいろ行動してわたしはそれを聞くだけいっしょにいるだけで済んでしまう。なにかもの凄く相性が良いような気がする。高一に続いて高二でも同じクラスになったし。そうして友だちの期間も一年半を過ぎてただ今〝最長不倒記録〟を更新中。

 そんな唯一の友だちが変なことを始めて、変なことに巻き込まれている。行動すれば危険かもしれない。危険だったら後悔も当然起こる。でも行動しなければ後悔は無いの?



 どうすればいいの? 分かっていることは『なにかは起こっている』ってこと。あとはわたしの問題。行動を、する? しない?


 結局わたしの行動を決断させたもの、それは『唯一の友だち』だから。あのコはわたしにいろいろなことをしてくれたけど、わたしはなにひとつあのコのためにしていないような、そんな気がするから。


 行かないなんて選択肢、わたしには無い。


 わたしは家の玄関を出て自転車に飛び乗る。わたしのスカートと下着もドラムバッグに詰め込んで持っていく。ひたすらひたすら自転車をこぐ。一生懸命にこぐ。こぎ続ける。行き先はもちろん学校だ。

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