第10話【夜、直接担任から掛かってくる電話は気味悪くないですか】

『高二女子・仁科美愛から見える光景』


 自宅の電話がプルルルと音を立てている。置き電話の方が鳴るってのはわたしとは関係のない用件ばかりなのだけれどこの日ばかりは違っていた。


「はい仁科です」

 その電話は担任の村垣先生だった。おざなり気味の型どおりのやり取りの後、

〝深見がお前の家に行っていないか?〟、と訊かれた。

「いえ、今日は学校で分かれて家へ帰ってそのままですけど」

〝そうか、深見の行きそうな場所に心当たりはないか?〟

「さあ? 部活が無い日は何をしているのか」

〝さあ、ってそんなもんか〟


 わたしはそのことばに刺を感じた。しかし先生は何も感じないのか、

〝メールのやり取りくらいはするんだろう?〟と続けて訊いてきた。

「しますよ」と言ったところで、

〝ちょっと待ってくれ〟と先生が言う。ガサッと送話口をこするような音がしてしばらく声が聞こえてこない。


 これはなに? 時間にしてどれくらい? 二十秒くらい? 少しイラっとする。

〝すまなかったな〟先生はそう言うとそこで電話は切れた。

 なんなの? これ。


 訊きたいことだけを一方的に訊いて切れてしまう電話。なにを考えているのかまるで解らない。なんだか気味が悪い。



 不思議なもので繋がっているときには思いも出さないのに切れた途端に思い出すことがある。『みーしゃ』が引き抜こうとしていたあのグランドの剣はどうなったろう? あの引っ張っても引っ張っても抜ける気配のなかったあの剣は。先生の妙な電話はあの剣と何か関係があるんじゃないの? なぜこんなことにさっきまで気づかなかったんだろう。

 即タタタッと二階への階段を駆け上がり自分の机の上に置いてあるスマホのところへと急ぐ。通話、ダメ。メール操作、送信。当たり前だけど三十秒では戻ってこない。埒があかない。


 あの剣は今この時もグランドに刺さっているんだろうか? それを確認しさえすれば何か次に分かることがある。自然、足がそわそわし部屋の中をぐるぐると廻る。部屋の電気を消す。窓の外を見る。夕闇が迫って来てる。

 今から学校へ行ってグランドの様子を確認するのには相当の勇気が要る。

 わたしは思いつく。そうだ、先生のところに掛けよう。あの電話は何か事情を知っている電話だ。わたしのスマホには学校の電話番号など登録していない。一階の置き電話横に置いてある〝あの住所録〟を見ないと。もどかしい。あれから何分経ったか。




 ————なんてこと。こんな時にあの住所録が見あたらないなんて。


 付近のいろんなものが放り込んである箱やら壁掛けポケットやらを捜索し、テレビ台の裏に落ち込んでいるのをようやく見つけた。住所録を開き受話器を取り学校の番号をプッシュする。

 誰も出ない……何が始まっているの? わたしはこの後どうすればいいの? わたしは壁に掛けた時計へと視線を上げる。


 この季節、今はもう夜だ……

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