第6話【教師が三人しかいない職員室】

『高二男子・水神元雪から見える光景』


 バァンっ! と途方もなく大きな音をたて扉を開けてしまった。辿り着いた——無事職員室に……はぁはぁと息が切れている。


 職員室の中には——っ……見廻す。たった三人しかいない。全員先生だった。はぁはぁとまだ息が切れている。


 深見さんが……いない……

 ここにいないって……これってヤバくな————


 その先生達の中に見覚えのある顔がいた。去年までの担任が。村垣……村垣豪造(むらがき・ごうぞう)先生、担当は現代文。去年までの自分のクラス担任。今まだテストの採点中のようで、そして相変わらず机の右端上にGK用の手袋が載っている。趣味のサッカーはいい歳なのにまだ続けているようだ。


「ゲンセツっ、職員室には静かに入ってこんか!」村垣先生の反射的な声が飛んできた。


 『ゲンセツ』というのは自分のこと。元雪の音読み。二年次から進路コース別にクラス再編されたため今は別のクラスの担任になってしまっていたがまだ覚えていてくれたらしい。


 元担任の説教に臆している場合じゃない。自然と足がその村垣先生の方に向かっていく。自分の態度がカンに触ったものか先生は再度何か説教をかまそうと口を動かしかけたが自分の喋りが僅かに先になった。


「グラウンドでを振り回してるっ!」自分は微妙に嘘をついてしまった。

「なに?」とあっけにとられる村垣先生。

「いま、たった今……」自分はなお息が切れていてさらにそれでもなにか言おうとしたその時——

「すぐにひゃくとおばんっ!」村垣先生のよく通る大声が職員室に響いた。さらに続けて「緊急だ。早く!」と他の先生を急かす。弾かれたようにうち一人の先生が机上の電話に飛びつく。それを確認した村垣先生はつかつかと歩き出す。

 こっちはもはやことばを発することもできず上体を折り曲げただ息を切らしているだけ。

 村垣先生は職員室の装備品『さす又』の掛かる壁の前へと。早くも二本の『さす又』を二本とも手に取り、うち一本をもう一人の先生に無言で渡していた。薙刀を振るうが如く入り口に向かって構える。『さす又』を渡された先生ももう一方の入り口に向かって構えていた。

「警察! すぐ来ます‼」電話を掛けていた先生が受話器を持ちながら大声で叫んだ。

「警察が来るまでこの場を動くな。構えを崩すな!」村垣先生が檄を飛ばす。

「ハイっ」と即座に戻ってくる二人の先生の返事。この仕切り、さすがベテラン。

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