第4話【剣撃を受ける、それも意中の女子から】
『高二男子・水神元雪から見える光景』
剣が引っこ抜けた反動。深見さんも自分もグラウンドにドっと倒れ込む。背中向き。背中向きだが自分は深見さんの上に乗りかかってしまった。左手がどこだか分からないけれども深見さんの制服の上にある。人の着ている服の生地の生暖かさが手の平に伝わり——その瞬間自分は思いっきり突き飛ばされた。
これまた自覚はない。ないけれどもヘンなところに手が触れてしまったのなら当たり前の反応といえた。だけれどもここから後が当たり前などではなかった。
自分は両手を地面につき尻もちをついた状態で見上げていた。低くなりつつある陽を背に両足を開き仁王立ちする深見さんがいた。全体が浅暗く影で塗りつぶされてる。
信じられない光景が目の前にあった。剣を高く高く上段に構えているようにしか見えなかった。剣だけが陽光を一瞬ギラリと反射しその存在を主張する。
これはなにかの冗談なんだろう?
次にその反射光が目に入った瞬間自分は横っ飛びに跳んでいた。何かを見て動いたわけじゃない。それはたぶんカンだ。その悪いカンは的中した。ほんの直後もうもうと砂塵が舞い上がる。その舞い上がり方が普通じゃない。間違いない。切られかけた。
状況から剣は地面を切った。だが音は聞こえなかった。地面についた手をギュッと拳にし砂ぼこりの煙幕が消えぬうちに立ち上がる。立ち上がった直後再度跳ぶ。
『僅かでも同じところに立つべきじゃない!』そう頭で考えたわけじゃない、身体がそう考えたように動いていた。今度は音が来た。猛烈な風切り音。
普通音がするか? けど音がした。この音が凄まじく速く剣が振られたことを意味してる。女子だってのに。その一瞬間深見さんと目と目が合った。だけどただそれだけ。
どんな目だった? 怒りの目だったか?
向こうの意思がこちらに伝わるともこっちの意思が向こうに伝わるとも思えない。
跳ぶ‼ 一瞬止まり、また跳ぶ‼ 繰り返す‼ 少しずつ間を広げていく。心がもう耐えられない。
走り出していた。太陽の方に向かって。どれほど効果があるか分からない。眩しければ距離感も狂うはず。身体が勝手に動く。自分の実力の限りの猛ダッシュ! 追ってくるのが気配で分かる。足はどっちが速い? 向こうは剣を持っている分不利なはず。長物は重そうだし安定しては走れない! しかし気配が消えてくれない。消える様子が無い。くそっ! その時握りしめている拳の中のモノに気づく。後ろに向かって投げ付けるように手の平を開く。手の中につかんでいたのは幾ばくかの砂————後は走る。走る!
気配が来ない。追ってこない。走りながら後ろを向く。深見さんがうずくまっていた。今の目つぶしになっちゃったのか? なにがなんだか分からない。だけどごめん。深見さんから目線を切りグンと走る方向を変える。行き先はどこでもいい、ここから逃げるんだ!
走りながら今さらながらに思った。こんな訳の分からない剣はほっとく方向で一緒に下校することを試みれば良かった、と。こんな物を拾おうなんて思う方がどうかしてたんだ。
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