10-3 The test result【試験結果】
およそ一ヶ月後、季節は春になり、僕と翔は何度も英語について話し合ったファミレスに来ていた。模擬試験の時と同じく、この場でTOEGGの結果を一緒に見る。
あの時も緊張感はあったが、今感じているものとは比べものにはならない。
なんせ、これで負けたら翔がジェシーに告白してしまうのだ。
この冬の間にずいぶんレベルアップしたし、試験の出来にも自信はある。しかし、これは勝負であるから翔がどれだけできたというのかが気がかりだ。
三か月前の時点で、僕と翔はほぼ同格であったわけだが、それからの勉強はほとんど別々にやっていたから、そこから翔がどれだけ伸びたのかは未知数だ。この勝負は翔から言い出したことであり、翔は勝つ自信があったのだろう。
自分としては満足できる成果が出るものだと思っているが、翔に勝っている自信は正直ない。翔は自らジェシーファンクラブを結成するほどの人物でありその熱意と行動力も半端ないし、元々の学力だって僕より高い。
しかし、僕にはジェシーがいた。
ジェシーと共に過ごして、ジェシーと一緒に英語を勉強して、ジェシーのことをもっと知りたいと思って、曲りなりにもジェシーとも英語で少しは会話ができるようになった。
元より、英語を習得することではなく、ジェシーとより親密な関係になることが僕の目的だった。その僕の熱意が少しでも上回ることを信じて僕は試験の結果が入っている封筒を開く。
僕のTOEGGの点数は……、830点。
正直、期待以上の点数だった。
でも、この点数を見ても素直に喜ぶことはできない。
問題なのは、翔の点数である。
「僕は830点だった。翔は?」
今更、どうしようと点数が変わるわけではないが、僕は精神的に優位に立とうと、翔に先に問いかけた。
「……。残念……。俺は810点だった」
翔の点数を聞いた瞬間、緊張の糸がプツンと切れて、僕はふぅとため息をつく。
点数表をお互いに交換して見ると、リーディングは全く同じ点数であったが、リスニングで20点の差がついた。
この20点は間違いなく、マスター・ジェシーのおかげでついた点差だろう。
聞くところによると、翔はリスニング対策について、発音の本を一冊やったあと動画サイトで練習したり、オンラインの英会話講座を受講したりしたそうだ。それだけでも、生でジェシーと会話練習をした僕と20点差しかつかなかったのだ。
そういう意味で、マスター・ジェシー無しで取った翔の810点はすごいと思うし、僕としてはちょっとずるをしたような気分になってしまう。
「これで、ジェシーに告白するのは、無しだからな」
しかし、どんな手を使ったとしても、僕の勝ちは勝ちであり、約束通りに翔にはジェシーに告白をさせるわけにはいかない。
「わかってるよ。大体、あの試験の前にイチャイチャしているお前らを見たらもうそんな気はなくなっていたからな……」
「そうか……」
翔の残念そうな表情からは、それが本心にはとても見えない。
「今度、ラーメンおごれよ」
話は終わったと、席を立つ僕に、翔は後ろから声をかけてくる。
「ああ、一杯だけな」
勝負に勝った僕がなぜおごることになるのかわからないが、翔の傷心を慰めるためにもちょっとくらいはいいかという気になった。
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