Chapter8 模擬試験とクリスマスパーティー

8-1 Practice exam【模擬試験】

 英語を習得する上で、最大の難関になるかと思っていた英単語だったが、忘れて覚えるという画期的なやり方を編み出したことで、その習得効率は飛躍的に向上した。


 そして、英単語の習得が上手く進むようになると、他の勉強効率もあがった。相変わらず英文解釈の勉強は続けていて、英文というパズルの組み方を練習していたのだが、そのパズルの中にはまる単語というピースが違和感なくはまることも多くなってきた。


 音読を繰り返すと、英文の構造を理解するスピードも速まり、複雑でない文章なら英文解釈をしないでも内容がとれるようになる。


 英文解釈がある程度できるようになると、英文を読むのに抵抗がなくなってくる。

 それを活かして、僕達は単語を英文の中で覚えるということも始めた。単語をとにかく数多く回して忘れて覚えるというやり方は確かによかったが、その中でも英文解釈の勉強のついでで出てきた英単語の覚えやすさは際だっていた。だったら、もうはじめから文章の中で覚えたらいいのではと考えた。


 市販されている単語帳の中には、英単語がただ羅列されている参考書だけでなく、長文の中で覚えようというコンセプトの単語帳もあり、英語が少し読めるようになるとそれらも上手く使えるようになっていた。


 なにからすればよいのかも分からなかった英語だったが、一度思いきり踏み出してみると、びっくりするくらいに全部が上手く回るようになる。


 おかげで、英語の定期テストでも、クラスの中で上位の成績をとることができた。


 英語以外でも、ジェシーがいる学校生活と私生活は刺激も多く、時間もあっという間に過ぎ、季節は冬へと向かっていた。


 明るいジェシーの金髪とまぶしい白のシャツのキラキラさもよかったが、明るいジェシーの金髪と黒のセーラー服のコントラストもカラフルでよいものであった。


 そのジェシーの隣に座って、今日は模擬試験を受けている。


 高校生活というのはめんどくさいもので、平均的な偏差値の僕の学校でも、一応は進学校であるため、外部の模擬試験を年に何回か受けることになっている。まだ受験までは二年あるのだから、時期尚早のような気もするが、あるものはしょうがない。


 今までは憂鬱になる模擬試験の当日だったが、今日は楽しかった。それはジェシーが隣にいることが理由じゃない。いや、それもあるかもしれないけど……。


「数学どうだった?」


 全ての試験が終わって、翔が話しかけてくる。


 みんなの出来を聞き合うのは試験後の定番トークネタだ。


「全然、ダメだった。翔は?」


 数学については全く楽しみではなく、散々な出来だった。


「まあまあかな」


 翔の回答はにべもない。


「まあまあか……」


 こういう言い方ができる人間の点数は大体いいからずるい。


「はあ、絶対にまあまあなんかじゃないんだろうな。でも、数学も国語も関係ない。僕の勝負所は英語だからね」


 そう、楽しみだったのは、数学でも国語でもなく英語ただ一科目である。


 今までは、何を読んでいるのかも分からない暗号文を読み、ごく一部読み取れた単語だけで無理矢理類推して答えを出すという、謎の試験だった英語の試験だったが、今回ははっきりと出来が違った。


 文章中の単語の意味の多くを理解して、わからない単語でも類推することもできたし、文章の構造はほとんどがはっきりとわかった。それが分かれば、書かれている文章は国語でやっているものに比べれば平易なものだし、自分でも驚くくらいに、スラスラと答案用紙を埋めることもできた。


 解法テクニックとか、そういうことはやっていないのだが、要は英語を読めればいいのだ。


 文法問題とかも、そこまで重点的に勉強していたわけではないが、なんかパズルの組み方がおかしいなという点に気づければ、それなりに解ける。 


「目標は偏差値70と、お前に勝つことだからね」


 元々が偏差値60くらいある翔も、僕と同じように英語を勉強し、偏差値も大幅にあげてくるはずだ。その翔に勝とうと思ったら相当目標を上にしないといけないと思い、僕は偏差値70を目標にした。どの教科でも偏差値50前後くらいしかとったことない僕が、ずいぶんと大それた目標を立てたものだと自分でも思う。


「言っとくけど、俺も自信はあるからな」


 もともとそれなりにできる翔が自信があるのは当然のことだろう。


「言っとけ、負けたらラーメン奢りだからな」


 でも、決して翔に負けないくらいの自信は僕にもある。


「お前こそ忘れるなよ?」


 翔も一歩もひるまないので厳しい勝負になりそうではあるが、まあ、ラーメン一杯くらいなら別におごってもいいだろう。

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