6-5 Wanted person【お尋ね者】
「なに? ここはマンガ研究部の部室なんですけど?」
ノックをしてもしばらく誰も出てこず、もう一回ノックをしようと思ったところに、中から部員らしい女の子が出てきた。
こう言っては失礼かもしれないが、その女の子はちょっと暗そうでいかにもマンガ研究部にいそうなオタクという風体である。学校指定の制服を普通に着こなして、日本人として当然のように黒髪である。少しでも目を引くところといえば、ちょっとおっぱいが大きいくらいだが、ジェシーのアメリカンサイズには全く及ばない。一見しただけで、派手で明るいジェシーとは正反対という感じだ。
「ええっと、それは知ってて来たんですけど……」
歓迎されているようでもなく、むしろ来客に対して不機嫌さすら感じさせるその子の態度に、僕は怯みながらも話を続ける。コミュ障の僕としては、初対面の人間と真剣な会話をするのは緊張するものであったが、最近はそういう状況でもわりと自信をもって行動できるようになった。
「そう……、それで何の用?」
「マイヤさん、初めまして。私達はマンガ研究部に入部希望で来ました」
その張本人として、ジェシーは来訪目的を言う。マンガ研究部の部員がこの舞弥さん一人で、部長であるということは、昼休みに事前に調べていた。
挨拶するジェシーの堂々とした 様は、いつも一緒に過ごしている僕ですらほれぼれするくらいで、この少女との出会いがあればこそ、僕もこの状況で落ち着いていられる。この状況はいきなり金髪美少女が家に尋ねてくるのと比べたら、全く大したことはない。
「入部希望者? なに? 貴方達、マンガ研究部に入りたいの?」
「いや、僕達じゃなくてこの子。ジェシーって言うんだけど……」
舞弥は僕と翔のことを眺め回すように見たので、僕は慌ててジェシーの方を指す。
「ああ、ジェシーちゃんのほうか……」
「知っているの?」
「だって、アメリカから来た留学生なんて珍しいものが話題にならないはずがないでしょう。学校中、誰でも知っていると思うけど……」
「まあ、そうだね……」
ジェシーの名は、登校初日にして、僕の学校での知名度を余裕で越えていたわけで、誰もがその名を知っているのも当たり前の話だ。
「それじゃあ、あなたがジェシーファンクラブから指名手配されているっていう譲二君?」
舞弥はジェシーを見て、僕を見て、首を傾げる。
「し、指名手配!?」
どうやら、僕の名もジェシーとセットで売れているらしいが、指名手配なんて話は初めて聞いた。
「なんだ、知らなかったのか……」
翔も僕が指名手配されていることは知っているらしい。
「なんだよ、一体、僕の首にいくら懸賞金が懸っているんだよ?」
「いや、まあ……、それは……、これ以上、懸賞金が上がらないように気をつけとけよ」
翔は言いよどんだ挙句、肝心なところは隠されてしまった。
「あの、とりあえず中を見せてもらってもいいですか?」
ジェシーがその時を待ちきれないとばかりに、舞弥に急かす。
「まあ、それくらいはいいよ」
舞弥は部室のドアを大きく開く。
「ありがとうございます。では、お邪魔しますね」
ジェシーが丁寧な礼をした後に、僕達もそろってマンガ研究部の部室へといよいよ入る。
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