Chapter5 文法&英文解釈
5-1 Rough English【ざっくり英語】
週明けの月曜日の昼休み、学食で翔と一番安いラーメンを食べながら、お互いに学習の進捗状況を確認し合う。
「あの文法の参考書はどんな感じだ?」
「まあ、結構進んだよ。週末はどこにも行かずに、ずっとあの本を読んでいたからね」
「ずっと……だと!?」
翔は驚いたように目を見開く。
「途中でジェシーのゲームに付き合ったりはしたけど、暇だったしね」
「ジェシーちゃんと一緒にゲームだと!?」
翔はずずずーっと勢いよく吸っていた麺を吐き出し、派手にスープを飛ばす。
「何をそんなに怒っているんだよ?」
「ジェシーちゃんと一緒におうちでゲームしたんだよな?」
「何回も同じこと言わないでも、その通りだよ」
翔は、すごい目線でこっちをにらみながらしつこく聞いてくるが、僕は努めて冷静に答える。
「そんなのおうちデートじゃん。まじでうらやましい」
「ジェシーとは家族なんだから別にいいだろう?」
僕はぎりぎりで翔に聞こえるくらいの声でしか話さないが、翔は食堂中に聞こえるような大声で話す。
翔自身が、僕がジェシーといちゃこらやっていたら命が危ないと言っていた本人なのだが、その翔のせいで四方八方から目線が飛んでくるのが分かる。なぜだか、この短い期間にもジェシーファンクラブの勢力はさらに広がっているらしい。おかげで、僕も気が気ではない。
「お前、家族だというのを免罪符にして、ジェシーちゃんと何をしてもいいと思っているんじゃないだろうな?」
「いやいや、ほんとにほんのちょっとだから、ゲームは一日一時間。僕は英語の勉強の方に集中していたかったくらいで、ゲームもジェシーから誘ってきたんだから!」
「はあ、世の中不公平だ」
翔は気落ちして声のトーンも落ちる。その態度を見て、少しざまぁ見ろと思ってしまう。大体、こういう好奇の目に晒されるのだから、少しくらい役得もあってもいいものだと思う。
「それに、これも勉強の一貫だよ」
「一体、何の勉強をしているんですかね?」
「何って? 英語の勉強だよ。ジェシーは基本的に日本語で話してくれるけど、ゲームをしていると、とっさの場面では英語がでるんだよね。少しは英語の勉強にもなるだろう?」
その大半は、なにやら汚い意味を持ちそうな表現ばかりであったが、英語を本気で勉強し始めた僕から見れば、そういう表現でも勉強になる。
「はいはい、惚気話はその程度でいいよ」
「だから、惚気話なんかじゃないよ。そもそもジェシーはゲームが上手すぎて、ほとんどやられっぱなしだったんだから」
「はいはい、もう十分わかったよ。それで、どれくらい進んだんだ? 俺はどうにか一周は終わらせたけど」
てっきり、翔はもっと進んでいるものだと思ったから、僕はその答えを聞いて驚いた。
「僕はとりあえず三周かな」
「マジ?」
翔も僕の答えに驚いたようだ。
「うん、土曜日までで半分までじっくり読み終わらせて、英文だけ音読して復習。日曜日も半分まで終わらせて、英文だけ音読して復習。さらに、日曜日は英文だけ音読して全部一周通したからトータルで三周」
自分で言っておきながら驚くが、本当にこの言葉通りにやったのだからしょうがない。ジェシーと英語で会話したいという熱意を持って、あの参考書に取り組み始めたら、自分でも驚くくらいに没頭できたのだ。
「そんなハイペースでできるものなのか?」
「英文を音読するだけなら薄い参考書だし、そこまで時間はかからないよ。喉は疲れたけどね」
そのハイペースを維持できたのは、とくにそのやり方を音読にこだわったおかげだ。やったのは解説をなんとなく理解して例文を音読。ひたすらその繰り返しだ。
「うーむ、これがジェシーちゃん効果か。あの譲二がここまでやる気になるなんてな」
「今まで人のことをどう見ていたんだよ」
「せいぜい、テスト前一夜漬けしかしない男」
「何も言い返せないのが癪だけど、僕だってやる時はやるからね」
「それで、やって見ての感想は?」
「今まで何も知らなかったんだなあと……」
英語の勉強を本格的に初めて三日しか経っていないが、この間だけでもずいぶん変わったものだと思う。もちろん、英語の実用に足るものには遥に遠いが、それでも確かな一歩を踏み出せたと思う。
「学校では、一つ一つの文法事項を別々にやっていたから、それらが全部バラバラに見えていたんだよ。でも、全部繋がっていたんだなあと」
「どういう意味だよ?」
我ながら曖昧な言い方だと思うわけで、翔が聞き返してくるのも無理は無い。
「授業だと、be動詞とか、一般動詞とか、不定詞とか、動名詞とか、関係詞とか全部バラバラに一つずつやるじゃん? でも、それ全部が合わさって英語だってなんとなくわかったんだよ。日本語だって、意識しなくても、全ての文法事項が日常の会話や文章の中で出てくるだろう?」
「ああ、それで?」
「絵を書く時って、普通下書きをして全体像をみるじゃん。細かいところを塗って仕上げるのは最後にやることなんだよ。だけど、今までの英語の勉強では単語とか文法とか最後に仕上げるべき細かいところを気にし過ぎていたんだよ。文法全部をざっくりとやって、初めてその全体像が、ぼんやりとだけど見えたきがするんだ」
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