4-8 The first step【最初の一歩】

 勉強法が決まったところで、改めて僕達は本屋さんに出向く。


 以前来た時は、その本の多さに圧倒されるだけであったが、今回は目的の本は完璧に決まっていた為、時間もほとんどかからなかった。


 今日のところは買った本は四冊。


 最初の一冊は、文法の本。


 学校指定の分厚い資料集みたいな本とは違って、適度な厚さで解説も会話口調の極めて優しい本である。僕でもわりと簡単に理解できそうな内容であったが、be動詞から仮定法まで一通りは記述があるようだ。


 次の二冊は、英文解釈の入門的な本。


 翔が言っていたSVOCの基本的な指摘の仕方について書いてある。これも最初の一冊と同じく解説が非常に丁寧な分かりやすそうな本である。


 最後の一冊は、英文解釈についての本。


 これは一冊に英文が百個載っていて、それぞれに英文解釈でとくに詰まりそうなポイントがある文が厳選されていて、全部をやり込むとそれなりに骨がありそうだ。とはいえ、全部見開きにまとまっているからやりやすそうではある。全ての文について、SVOCの指摘も解説もされてある。


 今回買い物をした最終的な目的としては、この最後の一冊の英文の構造を理解して、それを音読のスピードで把握するということになる。


「本当にこれでいいのかな? もうちょっと、自分に合いそうなやつとか見てみたほうがいいんじゃない?」


 全ての本は翔の下調べについて選んだ本で、翔はそのタイトルだけを確認しただけで、中身をほとんど見ることもなかった。


「参考書の合う合わないはあるかもしれないけど、ある程度はあるかもしれないけど、自分がとっつきにくそうなやつでもやらないといけないものはあるよ」


 確かに、自分のやりやすそうな本だけを選んでしまったら、自分が楽にやれるというだけで、身につくものになるとは限らないだろう。ちょっと不向きであってもやらなければいけないものもある。


「とりあえず、この文法の本はこの週末で一通りやってみる。あとで、ざっくりと復習してみることになるけど、まずは全部やって英語の全体像をぼんやりとでも見てみよう」


「でも、翔にはこの本は簡単すぎるんじゃないの?」


 僕から見ても分かりやすく思えるこの文法の本は、翔には易しすぎるように思える。


「そうでもないよ。結構わかるところも多いけど、理解しきれていないところもそれなりにあるからね。逆にこれくらいなら、譲二の言う通りに完璧に理解していないとダメだという気もするしね」


「お前、さっきは完璧にしないでいいって言っていたくせに矛盾してないか?」


「完璧にしないって言うのは、完璧に理解しているところと、曖昧に理解しているところを分けるってことだよ。そもそもが、言葉なんて曖昧なところがあるんだから、そういうところは曖昧でいいって話だよ」


 翔の言い分は納得できる部分もあるが、その完璧でいい部分と曖昧でいい部分とを分けることが簡単にできれば苦労はしない。


 要領のいい翔はともかく、僕でもその区別が上手くできるのかと心配になる。


 しかし、新しい本を買ったことで少しはテンションがあがり、英語に対する具体的なアプローチが少しは見えてきたことで、やる気も出てきた。

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