4-3 Limited money【金欠】
本屋では実に様々な英語の本が並んでいるのを見た。
しかもそれは、英単語、英熟語、英作文、長文読解、英文解釈、リスニング、会話文、構文、辞書、各種試験対策とジャンルだけでも多岐に渡る。
さらに、その難易度も読むのも辟易するような難解な分厚い本から、かなり読みやすそうな書き方の薄い本までこれも多岐に渡る。
それらの組み合わせ次第で有効な使い方ができれば、英語ができる足掛かりにもなるのだろうが、なにが効果的なのか全く分からない。
「そうだなあ。英語って一口に言っても、何からすればいいのかすらさっぱりわからんなあ」
僕よりは、いろいろな本を手に取っていた翔だが、それでも妙案は思い浮かんでいないようだ。
「とりあえず、学校でもらっているやつだけで頑張ってみるか?」
僕はカバンから学校で指定されている英語の教材を取り出して机の上に並べる。本屋では一冊の収穫もなかったわけだから、とりあえず現有の戦力を見てみようと考えたわけだ。
教科書に、単語帳、文法書に文法の問題集。
とりあえずの戦力はこれだけだ。
現状の僕は、これだけでもヒイヒイ言っているレベルである。
「いくらやってもそれだけじゃ足りないだろう。学校で英語の成績がいいやつはそれなりにいるにしてもペラペラしゃべれるのは皆無に等しい。うちのクラスでもジェシーちゃんができるのは当たり前として、英語の先生ですらそのジェシーちゃんにちょっと気後れするレベルだぞ」
「そうだよなあ」
レベルが高くないとはいえ、うちの学校は、一応は進学校ではあったが、周りに英語の成績がいい人はいても本当にペラペラしゃべれる人というのはほとんど存在しない。学校以外に範囲を広げてみても知り合いで英語をできるという人はほとんどいない。
「しかも、お前はこの英語の勉強に費やせる費用は三万円くらいなんだろう?」
翔はこの英語の勉強に費やすお金はとくに気にしないということであったが、僕は出来る限り三万円以内で抑えたいと考えていた。
「そうだね……。貯金をつぎ込んで使えそうな額はそれくらいだな。両親に頼めば、事情が事情だしお金は出してくれるかもしれないけど、いきなり頼りたくはないし、バイトするっていう手もなくはないけどね」
三万円は今の僕の貯金やお小遣いを考慮して使える限度額である。普段節制していてやっと溜まった額で、もうちょっと溜まったら新型ゲーム機でも買おうと思っていたのが、英語の為なら惜しくないと全額をつぎ込む覚悟はあった。
ちなみにうちの家計は、中学生ではあるが料理も作るししっかりしている愛に全てが委ねられている。愛に頭を下げてお金を出してもらうというのは、一番気が進まないものであった。
「やっぱり足りないかな……」
しかし、改めて参考書を物色した限りでは三万円はあまりにも心許なく思えた。
「いや、足りないってことはないと思うぞ。今日見た限りでは、中には高い本もあったけど、学生向けの教材は値段を抑えめにしたのも多かったし、教材が多かったからってそれを使いこなせないと意味ないだろう?」
「でも英語の教室や、通信教育に費やすって手段も使えないぞ」
学生のもつ財力では、そんなものに手を出したらあっという間に全財産が吹き飛んでしまうだろうが、英語を勉強するためなら、それらは魅力的なものには思えていた。
「それだって考え方次第だよ。そういうのは、体面的には英語を教えることを目的としているように見えるけど、それをエサにしてできるだけ多くの人を釣って、お金が多く取りたいっていうのがその裏にある目的なんだよ」
「それはそうかもしれないけど、それでできるようになる人がいるのも確かだろう?」
「まあな、でも、譲二の三万じゃ、そんなのは選択肢にもならないだろう?」
「いや、さっきも言った通り、どうしてもっていうのなら、親に頼み込んだりバイトしたりと選択肢がないわけじゃないよ」
ジェシーを送り込んできた張本人である両親が英語を勉強したいからお金をくれといって断ることはできないだろう。どうしてもというなら、愛に頼み込むという最終手段もありかもしれない。
「それに、翔もそれを使わないで有効な手段を思いついてはいないんでしょう?」
「今のところはね……」
「なんだよ? 何かあるなら話せよ」
翔とて、具体的に何をどうするかは決めきれてはいないようだが、僕よりは何かを思いついてはいるようだ。
「まあ、英語をやることは決まった訳で、闇雲にやってもしょうがないから、まずはお互いにどうやって英語を勉強するかを考えることから始めよう。金曜日の放課後までにお互いの作戦を話し合おうぜ」
翔はジュースを飲み干し、席を立ちあがる。考えはあっても、それを纏めて話せるほどではないらしい。
「まあ、とりあえずはそうしたほうがいいかもな」
結局、問題点が山積みになったばかりで、その日の作戦会議ではほとんど何も決まらなかった。
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