1-6 Oppai!【おっぱい!】

「えっ!」


 ジェシーの思いがけない行動に僕は驚きの声を出す。


「何もないですね……」


「いや、ホントに何もないからね」


 ジェシーの行動に驚きこそしたが、別にやましいことは何もない。


「ここに、エッチな本の山があるのは、鉄板のはずです……」


 なんで、そんな特殊な日本人男子の文化に詳しいのかと感心すればいいのか、呆れればいいのか分からない。まあ、でもよく考えてみれば、これは万国共通の男子の永遠の問題なのかもしれない。


「あんまり、部屋を物色しないでね」


 ジェシーはなおも納得がいかないのか、ベッドの下に手を伸ばす。別にそこに何もなくとも自分の部屋を好き勝手に見られるというのは気になる。


 それに、もっと重大なことがある。


 そういう本こそベッドの下にはなかったが、その実物が今まさにそこに現れかけていた。


 夏らしく薄着のジェシーは、ベッドの下の探索に夢中になり、服がずれているのにも気付かず、そのアメリカンサイズのおっぱいの上半分がこんにちはしかけていた。


 そんなものを直に見るのは初めてで、僕はジェシーが夢中になっているのをいいことに、夢中になって凝視するが、それ以上は理性がダメだと言っているから、名残惜しくもジェシーのことを止める。


「まあ、今日はこの辺で勘弁してやります」


 ジェシーは諦めてゆっくりと立ち上がる。


 一応、僕も健康な日本人男子が持っている秘蔵の本を持っていることは持っているのだが、まさか今日来たばかりの外国人に見つかるような安易な場所にはそれはない。


 そのことに自信はあったが、ジェシーの降参の言葉を聞いてホッとする。


「何もないし、あんまり、好き勝手にしないでね……」


 とにかく、今後のジェシーとの生活でも秘蔵の本の隠し場所には気を付けておいたほうが良さそうだ。


 ジェシーによる僕の部屋の物色が終わって、ジェシーの部屋へと戻り、トランクの整理もほぼ片が付いた。


「さて、荷物の整理も終わったし、何か飲み物でも飲みますか?」


「何を言っているですか?」


 ジェシーが首を傾げる。


「ええと、好きな飲物はある? ……、ワット、ドリンク、ドューユーライク?」


 これまでのやり取りから、これくらいの日本語は通じるものだと思っていたので、聞き返されるとは思わなかった。これ以上の簡単な表現も思いつかず、なんとかかんとか英語をひねり出すが、これも意味が通じたのか自信がない。


「意味が分からなかったじゃないです。休憩は早いです」


「いや、でもトランクの中身はほとんど整理し終わったと思うけど」


「パンツの整理も手伝いたいですか?」


「いや、だからそういう意味じゃなくて!」


 またしても僕は慌てて弁明する。そういうチャンスがあればと思わなくもないが、今はその時じゃない。この先も同居するのであればいくらでもチャンスはあるはずだ。って、何考えているんだ。


「もちろん、トランクの整理は終わりました」


「えっ、じゃあ後は何があるの?」


「あのトランクでは、量が足りなかったです」


「あれだけじゃないの?」


 実のところ、トランクの中身がほとんどマンガだったことに、僕は違和感を持っていた。これから一年間ここで生活していくというのに、あまりにも日用品が少なかったからだ。


「まだ、いっぱーいマンガが届きます。よろしくおねがいします!」


「まだ、来るの?」

 

 ピンポーン

 

 まるでそのセリフを合図にしたかのように、チャイムが鳴り、僕は部屋を出てインターホンをとる。


「はい、どちら様ですか?」


「宅配便でーす」


 その宅配便は、ジェシーの他の荷物を積んできたものであった。


 結局、その日の午後全てを、僕は段ボールに詰まったマンガの整理に費やすこととなった。

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