第93話

 数年後、佑麻は礼服であるBARONG TAGALOG(バロン・タガログ)を着てManila Cathedral/マニラ・カテドラル教会の祭壇の前に立っていた。


 ドナがパイプオルガンの演奏に合わせ、純白のウエディングドレスを着てバージンロードを歩く。そして一歩一歩彼に近づいてくる。父のいないドナは、父親代わりとなった大学の教授にエスコートされている。

 佑麻があの日ジョリービーで『待っていてくれ。』と頼んだものの、おとなしく待っているドナではなかった。勉強の合間に、Viberで愛を語り、スカイプでケンカし、休みにはお互いの国や留学先を訪問し、ふたりの両親には内緒だが、こっそり香港で逢って夜を過ごしたこともある。そして今日を迎えた。


 佑麻は花嫁を見つめる列席者の顔を眺めた。

 ドナの母親、ミミ、ソフィア、ドミニク、ジョンと麻貴。このふたりはドナ達より一足早く結婚していた。

 そして、エンジェル・トーカー プロジェクトに参加した多くの関係者が来ていた。佑麻の家族関係では代表して、妹の由紀が列席していた。彼女は大学を卒業して、父の病院で医療事務をしている。

 佑麻の父と兄は、仕事の休みが取れなくて、この教会には来ていなかったが、佑麻の父の強い希望で、この後日本で神前結婚式をもう一度おこなうことになっている。


 ドナの手が、エスコートの教授から佑麻へと渡された。ふたりは祭壇に向き直りファーザーと対面した。この教会で式を挙げるために、佑麻は何日このファーザーの説教を聞いたことか。ファーザーは、神を称えたのち、ふたりに愛の誓いを促す。

 そして、指輪の交換となり、佑麻は準備してきた結婚指輪をはめようと左手を取ったが、ドナの薬指にはまだ佑麻の母のリングがはめられていた。


「いいのよ佑麻。この上からはめてちょうだい」


 ドナの言葉に佑麻は、微笑みながら彼女の薬指にリングを添えた。


「ところで佑麻。いつから私のこと好きになったの?」

「六本木のクラブで、知らない危なそうな男と飲んでいるドナを見た時からだよ」

「えっ!佑麻はあの男たちと仲間じゃなかったの?」

「何をいまさら…」


 ドナはウエディングドレスのまま、飛び上がって佑麻にしがみつくと、彼の顔を両手で挟んで熱いキスをした。

 早すぎる誓いのキスに、佑麻もファーザーも驚き、列席者は積極的な花嫁に喝さいを送った。

 ようやく佑麻の唇から離れたドナは、彼だけに聞こえる声で言った。


「Hey! YUMA! I’m not yours, You are mine!!(佑麻、もう私はオレノオンナじゃないわ。あなたがワタシノオコトなのよ)」


 ファーザーはふたりが神の前で正式に夫婦になったことを高らかに宣言した。

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