第80話

 リムジンで向かった先は、世界の高級ブランドが集まるファッションモールだ。


 トニーは、麻貴をブティックに連れていくと、店内にある服を片っ端から試着させた。もともと背が高く運動好きな麻貴であったから、体の線は悪くない。出ているところは程よく出ていて、くびれるところもはっきりしている。

 トニーは、そんな麻貴のボディーラインを強調でき、しかも白い肌の色に映える扇情的な色のものを選んだ。そして、ヒール。ドレスの色とあわせた13センチヒール。下着もそろえた。もちろんトニーは下着のショップには同行しなかったが…。

 クリスチャン ディオール(Christian Dior)、クリスチャン・ルブタン(Christian Louboutin)、リズシャルメル(LISECHARME)。それらの買い物袋を抱えて、今度はヘアーメイクの店、ミッシェル・デルヴァン・パリス(MICHEL DERVYN PARIS)のマニラ店へ。

 聞きなれないブランドもあったが、すべてはフランス製でトニーに言わせれば、これらを選ぶのには意味があるとのこと。 本来の目的とは別に、彼は麻貴とのおしゃべりしながらの久しぶりのショッピングを、十分に楽しんでいた。


 ミッシェル・デルヴァンのドレッシングルームから、すべての準備を整えた麻貴が現れた。ポーズをつける麻貴に、トニーは美しく成長した孫娘を愛でるかのごとく、うっとり見惚れていた。


「どうです?何とか言ってくださいよ!」


 何とも云わないトニーに、心配になった麻貴が問いかけると、彼はようやく口を開けた。


「美しい。パーフェクトだよ、ミス・マキ。でもこれからが本番だよ。よくお聞き…」


 トニーは麻貴をリムジンに誘い、ジョンの居る会社に向かう車中で作戦を授けた。

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