第74話
その瞬間に、庭灯りが一斉に消えた。
そしてドンという太鼓のような音が遠くでしたかと思うと、夜空の天空に大きな火の華が開いた。やがて火の華はその数を増やし、麻貴が以前隅田川で見た花火大会さながらの呈で夜空を染めた。
「うわぁーすごい!今夜が花火大会だったんだ。偶然にしては出来すぎよね」
麻貴が、花火が放つ火の粉のきらめきを瞳に映して言った。
「いえ、偶然ではありません」
「どういうこと?」
「この花火は、今夜だけ、ミス・マキのためだけに、私が打ち上げさせました」
麻貴は、呆れてジョンの顔を見た。
「あなたがいくら金持ちだからと言っても、お金の無駄遣いにもほどがあるわよ」
「祖母が落ち込んでいる時に、祖父がやったそうです…。祖母は今のミス・マキのようにお小言を言ったあと、でも元気が出たととても喜んでくれたそうですよ」
麻貴の胸が小さくキュンと鳴った。
「まだまだミス・マキのことをわかっているとは言いませんが、泣きたい時には、いっそ泣いたほうが、早く元気が戻るかもしれませんよ」
「私は生まれてこのかた、男に涙を見せたことはないのよ」
「私だって今まで、同席を断られた女性の横に、図々しく座るなんて非礼をしたことがありません」
「…私の涙を見たら、ただじゃ済まないわよ」
「…よく意味はわかりませんが、覚悟はできているつもりです」
今なお盛んに打ち上がる花火。しばらく花火を見ていた麻貴の頭が傾き、やがてゆっくりとジョンの胸にあてられた。ジョンは膝においた自分の手の甲に、冷たいひと雫を感じた。
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