第70話
ナボタス・シティに隣接するマラボン・シティ、そこには中規模な警察署があった。
今日はその入口に、ドナやドミニクとともに群衆が取り囲んでいる。それは佑麻逮捕への抗議の集団だった。するとその集団に割って入るように、黒いリムジンが横づけされた。
運転手がドアを開きリムジンから出てきたのは、スーツに身を固めたジョン、軽快なデニムパンツの麻貴、そして大きな書類カバンを抱えた弁護士であった。3人は入口で止められている群衆を尻目に、警官の敬礼を受けて建物の中に入っていく。
ドナは女性が日本人でしかもそれが麻貴であると認めると、さらに心が乱れた。
麻貴は建物の奥に進み、鉄格子の中に佑麻を発見した。数週間ぶりに見た彼は、日に焼けた肌に、身体のあちこちの筋肉のエッジが鋭くなって、以前に比べると精悍さを増したように感じる。彼は膝を抱え床の一点を見つめていた。
「佑麻!」
急に日本語で自分の名前を呼ばれ、彼は驚いて声の主を見た。
「麻貴!何でお前がここに?」
「何でじゃないわよ!とにかく弁護士さん連れてきたから、何でこうなったか説明して」
麻貴は、ジョンが気を利かせて連れてきてくれた弁護士を佑麻に紹介する。
「説明ならドナにしてもらおう。ドナを呼んでくれ」
弁護士の要請で、ドナが呼ばれた。
部屋に入り、鉄格子の内側に佑麻を認めると、潤んだ目で鉄格子に張り付き、佑麻と指を絡ませた。そんなふたりを麻貴は腕を組んで睨んでいる。
ジョンは部屋の片隅で、佑麻、麻貴、ドナの動向を見つめ、必死にその関係性を推理しているようだった。やがてドナと弁護士が奥の机で、話し始める。
ドナがものすごい勢いでまくし立てているのを横目で見ながら、佑麻と麻貴は日本語で話し始めた。
「麻貴は何しにここへ来たんだ?」
「あなたを連れ戻しにきたのよ」
「なんで?」
「行き先も告げず、急に出て行ったから、みんな心配しているのよ」
「そうか…。心配かけてすまないが、子どもじゃないんだから、帰るべき時には自分で判断して帰れるよ」
そう言う佑麻の物腰に、麻貴は今までにない骨太なものを感じ戸惑った。
「それじゃ、あまりにも自分勝手すぎない!」
戸惑いを紛らわすように一層語気を強める麻貴だが、佑麻は軽くかわす。
「ところで、麻貴と一緒にいる紳士は誰?」
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