第71話

「ああ、彼。こちらで知り合って、お世話になってるの。ジョンよ。ジョン、こちらはユウマ」


 ふたりは鉄格子をはさんで握手を交わす。


「麻貴を世話するのは大変でしょう」

「いえ、とても光栄なことと思っています」


 ふたりは見つめ合う瞳の奥で、麻貴に対する共通な認識を確かめ合い思わず笑いあった。


「何が可笑しいのよ。変な人達ね」


 やがて、ドナと弁護士の話が終わり、今度は弁護士が警察署長に何やら話し始める。弁護士の主張が通ったのか、話が終わると警察署長は首を左右に振りながら、佑麻を留置所から出すように部下に命じた。

 警察関係者以外の全員が安堵に顔がゆるむ。麻貴は、佑麻を自分のいるパレスにとにかく連れ戻そうと、鉄格子から出てくる彼に腕を伸ばした。しかし佑麻はそんな麻貴には目もくれず、一直線にドナのもとへ駆け寄り、彼女を抱きしめたのだ。

 麻貴は伸ばした腕をだらりとおろして、呆然とふたりを見つめる。その瞳の奥に隠された失意を、ジョンは見逃さなかった。そして、ジョンは麻貴を取り巻く事情をようやく理解した。


「申し訳ないけど、今日はいろいろあってドナも疲れているから、このまま帰るよ」


 振り返って言う佑麻の右手には、ドナの手が握られていた。


「みなさん。ありがとうございます。落ち着いたらあらためてお礼にお伺いします。それから、ジョンさん。麻貴をよろしくお願いします」


 ふたりは、部屋に残るジョンと弁護士にペコリとお辞儀をした。自分の国の習慣にはないお辞儀を、佑麻に従ってするドナのしおらしい姿は、さらに麻貴の心を逆なでした。


「麻貴、また明日にでも連絡くれ。」


 そう言って、佑麻はドナとともに警察署を出ていった。

 外では抗議で集まった人々が、佑麻の姿を見て歓声をあげた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る