第59話

 マムは個室の一般病室に移されることになり、ふたりも付き添っていった。


 病室では、マムは生体情報モニタに繋がれながらも、静かな寝息を立てて眠っていた。ふたりは、しばらくマムの寝顔を眺めていたが、夜も更けてきたので、そろそろ休むことにした。

 病室の床に薄い毛布を一枚引いて、服も着替えずそのままふたりは並んで横になった。ホテルでもないのに、病室の床での寝泊まりを許してくれるのも、この国のいいところだ。

 横になりながらふたりは、生体情報モニタから発せられる規則的な信号音に癒されていた。


「ねぇ佑麻。ドクターでもないのに何であんなことが出来るの」


 ドナはマムを救った迅速な心肺蘇生法について尋ねた。


「あれね、前に兄に頼まれてボランティアでAEDの市民講習会を手伝ったことがあるんだ。その時に覚えたことさ。実際にやったのは始めてだよ」

「さすがドクターの息子ね。私なんてパニクっちゃって何もできなかった。看護師になるなんて言っておきながら恥ずかしいわ…。マムを助けてくれて本当にありがとう」

「いや、一度覚えれば、誰でもできることだから」

「それに、佑麻…」

「なんだよ」

「とってもカッコ良かった…」

「そうだろ。今頃わかったのか、遅いよ」

「ねえ…」

「なに?」

「今夜だったら…、お礼に私のバージンあげてもいいわ」

「…。い、いきなりバカ言うな!マムの居る部屋でそんなことしたら、殺されるよ!気持ちだけでいいから…」

「ああそう。あとで後悔しないようにね」


 それなりに勇気を出して言った申し入れを、あっさり断られてへそを曲げたドナが、佑麻に背を向ける。それを見た彼は、すぐさま後悔した。


「うーん…。そこまで言うなら、お言葉に甘えて、添い寝だけいただこうかな」


 佑真は後ろからドナを抱きしめる。ドナはそれを待っていたかのように、佑麻の腕に身をゆだねた。


「…ねぇ。私 汗臭くない?」

「いいや、いつものドナのいい匂いだよ」

「…ねぇ。そう言えばあなた、どさくさに紛れて、私の顔を叩いたわよね?」

「忘れなさい」

「…ねぇ。ところで私の腰のところに当たる硬いものは何?」

「いいからっ!寝ろ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る