第49話

 帰り道、ソフィアの後を歩きながら『この国は人件費が一番安いんだな。1日働いて、300ペソ、600円かよ。300ペソで何が買えるんだろう?相対価値でいうと、日本の3000円位のものが買えるのかな』などと考えていた。


 家では、ドナがもう帰っていて、ミミとともに食事の支度をしていた。ソフィアは、佑麻から受け取ったお金をそのままマムに渡す。

 佑麻が家に帰るなり、バスルームにいくと『何で日本人は毎日シャワーを浴びたがるのかね。水道代がもったいない』とマムが文句をいうが、もちろん言葉が通じないから、彼も安らかに水を使う。


 その日の出来事をドナと語り合いながら食事をした。

 最初は、得体のしれない言葉を使って佑麻と話すドナを、ミミもソフィアも珍しいものを見るように見守っていたが、やがてドナが通訳となって佑麻との会話にふたりも参加するようになった。

 マムは、相変わらず同じテーブルに着こうとはしない。食卓で佑麻の世話をしながら、今まで見せたことのない女らしい仕草と笑顔で話すドナを見て、マムはため息をつきながら首を振っていた。


 食事が終われば、女性陣が食器を片付ける。ドナを眺めながら、佑麻はリビングで暫く休憩。しかし、マムと一緒にテレビで人気番組『Face to Face』を観る勇気はない。

 やがてキッチンの仕事が一段落したドナと2階に上がり、寝具の準備をする。佑麻が横になると、ドナは彼が寝つくまでそばにいた。佑麻は朝が早いせいか、午後8時半頃には寝てしまう。もともと夜型の彼には信じ難い生活リズムだ。そしてこんな毎日がしばらく続いた。

 劇的な事件があるわけではない。燃えるロマンスがあるわけではない。しかし、お互いを身近なところで感じながら、静かな会話と笑顔でただ淡々と暮らす。そんなフィールドだからこそ、お互いの心により確かものがゆっくりと育っていったのかもしれない。

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