第44話

 夢の中で佑麻に会った日以来続く胸騒ぎは、今も続いている。しかし、そんな胸騒ぎの理由を落ち着いて考えている暇もなく、ドナは現場研修で忙しい日々を過ごしていた。


 今日も早朝から研修現場へ直行し実習をこなしたが、その後はゼミの打ち合わせで久しぶりに大学に出向かなければならない。

 向かう道すがら、ドナは不思議な感覚を覚えた。大学に近づくにしたがい胸騒ぎが大きくなるのだ。見ると、大学の門の前に大きな人溜まりができている。

 ドナも好奇心が湧いて人溜まりに近づいていった。すると何人かがドナの到来に気づき、自然と彼女の前の人垣が分かれ、モーゼが神の力で開いたような道ができたのだ。

 人々はひと言も発せずただニヤニヤしながらドナを見守っている。ドナは奇妙だと思いながらも前へ進んだ。そして輪の中心に男がいることに気づく。男が座る足元には『I'm looking for Donnalyn Estrada』と描かれていた。


 この男は何日間ここに座っていたんだろう。髪はボサボサで、Tシャツも泥だらけだ。男はゆっくりと顔を上げた。ドナにとっては奇跡を見た衝撃だった。あの佑麻がここにいた。

 佑麻は目の前にいるのがドナだと解るとよろけながら立ち上がり、目を潤ませた。佑麻を除いてここにいあわせた全ての人々は、この涙をドナとの再会を喜ぶ涙と解釈したが、実際は要救助者が死の瀬戸際に救助ヘリコプターを発見して、思わずこぼれた涙と考えた方が正しい。

 弱っているとは言え周りの女子大生からしてみれば興味が尽きない長身色白のPogi(イケメン男)。その佑麻が目を潤ませてドナにしがみつこうとすると、周りの女子大生が一斉にはやし立てた。

 あの日本での創立記念パーティーと立場が逆の状況だ。しかしドナは毅然として、佑麻に背を向けずしっかりと彼を抱き支える。勇敢にもこの男は、遠き日本からひとりで私に会いにやってきたのだ。先日からの胸騒ぎは、実は再会の喜びの予感であったことを、ドナは心から神様に感謝するのだった。

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