第34話

 最初のドライブインで休憩する時、ドナは佑麻の腕を取って離れようとしなかった。まるで、佑麻がどこかへ行ってしまうと心配しているようだ。


 絶対に置いてけぼりにしないから。大丈夫だから。佑麻がいくら言っても、ドナは離れようとしない。出会った当初は、5メートル以内に近づいてこなかったのに。そんなことを懐かしく思い出したりもしたが、それにしてもいつもと違うベタベタ度に、今日は様子が違うなとも感じていた。


 ワイナリーへ行く道の途中で、サクランボ狩りの果樹園に寄った。

 最初は虫がいそうだからと躊躇していたドナだったが、取り放題で食べ放題とわかると、たちまち宝石のようなサクランボの虜となってしまう。

 危ないからという佑麻の制止も聞かず、果樹の上の方がきれいで大きいと言って、脚立の最上段まで上る。佑麻は、脚立を押さえるので手いっぱいになり、自身でサクランボを採ることができなかった。

 抗議しようと見上げても、果樹に茂る緑葉のすきまからこぼれる日差しがまぶしくて、ドナの顔がよく見えない。しかし、スカートが透けてからだのシルエットが浮かんでくるのが妙にセクシーで、眺めているうちに徐々にサクランボへの興味も薄れていった。

 やがてドナは、スカートの裾に沢山のサクランボを包んで降りてきた。日差しをよけて果樹の根元に腰掛けるドナ。佑麻もその横に胡坐をかいたが、ドナに頭をかかえられて乱暴に引き倒された。ああ、膝枕をしてくれるんだと気づいた彼は、身を預けリラックスして横たわる。


「Isa isa lang ha ! (おなかを壊すからひとつずつよ)」


 ドナは取ってきたサクランボを膝の上にいる佑麻の口に入れた。


「日本のフルーツは、どうしてこんなに静かなの。フィリピンのフルーツは、味、形、色、もっとうるさいなのに」

「日の強さとか、ウェザーのちがいじゃないかな」

「フィリピンのフルーツでも、日本に来れば静かになる?」

「I don’t think so, I’m sure it won’t grow here. (いや無理だろう。日本に持ってきても育たないんじゃないか)」

「I hate you…(あなたは本当に嫌な奴だわ)」


 そう言うとドナは佑麻の頭を乱暴に膝から遠ざけた。


「What’s wrong? ( なんで怒るんだよ)」


 驚いている佑麻をしばらく見ていたドナは、やがてまた彼の頭を引き寄せ膝の上に載せた。


「Ok… Come…(まあ、いいわ。サクランボ食べなさい)」


 ドナは、サクランボを彼の口に運ぶのを再開した。

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