第32話

 ドナを迎えにいく道すがら、佑麻は車を借りる際の兄との会話を思い返していた。


「兄貴、ETC カードもよろしく」

「遠出なのか?」

「日帰りだけど、中央高速で勝沼方面に行きたいんだ」

「何だ、麻貴ちゃんとドライブデートか」

「いいや、違うよ。ドナだよ。彼女も、もうすぐ帰国するから、日本を少し案内してやりたくて…」

「ああ、あの天才ナースか…」


 兄はすこし考え言葉をつづけた。


「彼女が日本人なら、我が医院へすぐスカウトするのにな」

「どうして?フィリピーナじゃだめなの?」

「いくら能力があっても、患者さんが安心感を持ってくれないだろ」

「そんなもんかなぁ。自分が熱でた時は、安心して任せられたけどなぁ」

「しかし、彼女は偉いよ。もうあの年で、将来自分が何をしたいかしっかり考えているもの。ふらふらしている今のお前には、到底太刀打ちできる相手じゃないな。いい加減お前も、将来のことをしっかり考えろよ」

「お説教はもう十分だよ。」


 そう言いながら、佑麻はひったくるように車のキーを受け取ったのだ。

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