第31話
「Donna, kelan ka ba uuwi dito?(ドナや、いつになったら帰ってくるんだい?)」
ウェブカメラを通してマムが尋ねる。
「そちらを出るときに言ったでしょ。もうすぐよ。来週には帰るから」
「マムは、アテのつくった料理じゃないと沢山食べてくれないのよ」
妹のミミがカメラに割り込んできて話す。
「アテが長く日本にいると、マムは病気になっちゃうかもよ」
「わかってる」
「それに、前の家のおじちゃんがまた膝が痛くなったので湿布を貼って欲しいって言っているし、隣のおばちゃんはいつもの薬が切れたからいつもの薬がなんだったか教えて欲しいって言ってる」
「Sige, sige.(はいはい)」
「ソフィアは、テストの結果が悪くて怒られたからまた勉強教えて欲しいそうよ。ドミニクは、アテがいないと乱暴になってケンカばっかりしているわ」
「ねえ、マムそばに居る?」
「いえ、叔母さんが来たからバルコニーで話に夢中よ。呼ぶ?」
「呼ばなくていいわ…。もしよ、私が日本人と結婚して日本に住むようになったどうなるかしら?」
ドナの問いにミミはしばらく絶句した。ウェブカメラを通してしばらくドナの顔を見つめると、呆れたように言った。
「マムは病気になって死にそうになり、あそこが痛いここが痛いって町中のじじばばが暴動を起こすと思う。見かねた、コミュニティーリーダーが日本に行って、アテを誘拐して無理やり連れ戻し、ここまで追っかけてきた旦那をドミニクが間違いなく殺すにちがいないわ。…本気で言っているの?」
「冗談よ。冗談に決まってるでしょ」
「そうよね」
ミミはそう言いながらも、疑わしそうにウェブカメラ越しにドナを覗き込んだ。
「ところで、お土産忘れないでよ」
「ええ、買い物リストをメールで送ってね。なんとか叔母さんにお金を借りて買って帰るから」
ミミとスカイプを終えたドナは、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
机の上には書きあがったレポートがある。明日提出すればカリキュラムはすべて終了する。その後の日本滞在の残された日々は、叔母のノルミンダと地方に居る親戚へ挨拶に行ったり、東京ディズニーランドに行ったり、御徒町へお土産の買い物に行ったりして多忙な予定が組まれている。もう佑麻と過ごせる日もごく限られてきた。
レポート提出後の明後日には、佑麻がこの前の看病のお礼とレポート完成のお祝いに、日本でも有数のワイナリーへ連れて行ってくれることになっている。ドライブしながらの遠出になるので、朝から一日一緒に居られるようスケジュールを調整した。
たぶんこの日が佑麻と過ごせる最後の日となるであろう。とにかく佑麻といる時は、別れを考えないで楽しもう。ベッドでドナは、何度も自分に言い聞かせていた。
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