第27話
「佑麻、熱がある。今日は帰ったら」
図書館でレポートを書いているドナが見かねて声をかけた。
今日は、図書館での調べ物につきあった佑麻だが、朝、家を出る時からどうも熱っぽかった。どうやら前夜の飲み会のばか騒ぎがたたったようだ。
ドナは佑麻の額に手をあてる。確かに顔も赤いし熱がある。
「そうだね。今日は帰るよ」
佑麻は、立ち上がろうとするが足元がおぼつかない。ドナは彼の腕を支えながら言った。
「バイクを置いて、タクシーで帰りましょう。I bring your home.(家まで送って行くわ)」
佑麻のバッグも肩にかけ、二人してタクシーに乗り込む。
佑麻の家の前にタクシーが着くと、ドナはその家の門構えの立派なことに驚いた。振り返って、彼を見るともうぐったりしている。やっとのことでタクシーから彼を降ろして、玄関のチャイムを鳴らした。
「今日は、家政婦さんが休みなので家に誰もいないんだ」
佑麻の説明を聞き、仕方なくそのまま佑麻の腕を支えながら家の中へ。そして苦労しながら彼を2階のベッドルームに運び込んだ。
ドナは、佑麻のベッドルームを見回した。
初めて見る彼の部屋は、確かに男の子のギアは多いものの、案外整然としている。壁にしつらえた棚には、デジタルフォトフレームが置いてあり、家族を撮った写真が入れ代わり映っている。幼い由紀を腕に抱いている母。その母に寄り添う佑麻と兄のスタジオ写真。小学校の入学式であろうか、頬を膨らませて自慢げに母親と並ぶ佑麻。母親から肩に手をかけられて恥ずかしそうにしている中学の佑麻。どの写真も、今は亡き母を想う佑麻の気持ちがよく伝わってくる。
ふと見ると、机の前の壁にドナの写真がピンで留めてあった。いつ撮ったのかと近づいて良く見ると、パーティーで踊っている時のスナップだった。部屋にいる時にも自分を眺めているのかと思うと、ドナはちょっと恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。と同時に、こんな大胆にドナの写真を飾っているのだから、彼はこの部屋に自分以外の人を入れないのだと想像できた。
家族と住む家でありながら、個人のプライバシーを大切にしている部屋がある。そんな家に暮らしている彼が、家族が肩を寄せ合って雑魚寝して暮らす彼女の家を見たらどう思うのだろう。
いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。ドナは頭を切り替えて、佑麻のクローゼットをあさりパジャマを取り出すと、彼を着替えさせてベッドへ寝かせる。彼は熱のせいか、ドナのなすがままに従っていた。
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