第24話

「お前が呼ばれないのに病院へくるなんて珍しいな」


 外来ロビーで兄から、佑麻は声をかけられた。


「いやぁ、看護師志望の友達がいて、医療現場の見学をアレンジしたのさ」

「ふーん。友達ってあの娘か?」


 兄はナースステーションで看護師と話しているドナをあごで指す。


「ああ」

「また毛色の変わった娘を連れてきたな。迷惑かけてないだろうな」

「事前に病院長と看護師長に承諾もらってるよ」


 しばらく兄はドナを眺めていた。


「おまえも、あの娘くらい医療に関心を持ってくれればいいのにな」


 また説教が始まるのかと佑麻は身構えたが、兄を呼ぶ病院のアナウンスに助けられた。


「またあとでな。」


 そう言い残して兄は足早に診療室へ歩いていった。


 今度はナースの制服の胸に研修バッチをつけたドナが、佑麻の方にやってきた。


「佑麻の病院、すばらしい。I’ve never seen this kind of machines in the Philippines. It’s very high technology. All of the rooms are clean and in order. And system and rules are well organize and under control.

(見たこともないような医療機器もあるし、どの部屋も清潔で機能的だし、電子カルテから支払いまで、システムが完備しているわ)」

「僕の病院じゃないよ」

「これだけ充実した設備があると、ドクターやナースがいなくとも、医療機器と薬が勝手に患者さんの病気を治してくれそうな気がするわ」

「その割には、ドクターやナースは死ぬほど忙しそうだけどね」


「死ぬほどってなに?」


 佑麻は日本語の意味を丁寧に説明する。


「これから、病室に連れて行ってくれるんですって。By the way, how do I look? (ところで、日本のナースの制服、似合う?)」


 少し大きめだったが、少女っぽさが消えていつもと違った大人の感じが眩しい。


「うーん…制服に、まだまだ中身が追い付いていないじゃないかな」


 と言いながらドナの額を軽くつついた。


 彼女は、お茶目に佑麻の指を掃うと、ナースに促されて入院棟に連れ立って行った。

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