第17話
バス停での待ち合わせに佑麻が乗ってきた車は、小ぶりながらも、見事な曲線で構成されたいかにも走りそうなスポーツタイプの車だ。
ドナは女性の大半がそうであるように、車には関心が薄く、その車がどこの国のなんという車なのかは判別できないが、高級車である事は容易に想像できた。後で、佑麻から兄の車だと聞いたが、ドナは日本の医師の高所得が羨ましく思えた。
バス停にたたずむドナを見た佑麻は、一瞬ハッとして固まった。そんな佑麻の反応を見て、ドナはシートに腰掛けながら、自分がどのように見えたのだろうかと心配になった。叔母のゴージャスな服を身にまとったとはいえ、着こなせていないようで居心地が悪い。やはり借りものの宿命であろうか。
佑麻は、ドレスシャツとスーツを完璧に着こなしている。きっと自分の服なのだろう。運転する凛々しい横顔を眺めながら、いつもとは違ったセレブな佑麻を発見し、ドナは妙な距離感を感じていた。
やがて、郊外の洋館に到着する。ゲストハウスのエントランスでは、新入生が受付をおこなっていた。
「先輩、遅かったですね」
そして、好奇な目でドナに視線を移すとニヤつきながら言った。
「ようこそ、サークル史上初めての外国人女性を心から歓迎いたします」
ドナは、もとより日本語がわからないので佑麻に助けを求めたが、彼はそんな後輩の言葉には無表情でそそくさとホールの中へ入っていってしまった。ドナは仕方なく、笑顔で軽く受付の後輩に会釈すると慌てて彼のあとを追う。
ホールに入ると、ふたりはホールにいるメンバーから一斉に好奇の視線を浴びた。これには佑麻も少したじろいだようだ。待ちかまえていた麻貴が立ちすくむ彼に呼び掛けた。
「佑麻、遅かったじゃない。キャプテンが待っているわよ」
麻貴に腕を取られて、佑麻は奥のドリンクコーナーへ引かれていってしまった。
すれ違うすべての人達と親しげに会話する佑麻を見ると、彼がみんなから好かれている事がよくわかる。早口な日本語は、到底ドナには理解することは出来ない。佑麻は友達にドナを紹介するわけでもなく、他の人たちとの会話に忙しくて、彼女と来たことを忘れてしまっているかのようだった。
いつしか、佑麻に取り残されたドナは、ひとりぽつんと壁の花になっていた。
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