第14話
「彼女。ひとり?」
若い二人連れの男が、日本語で話しかけてきた。
身なりを見れば、外国人のドナでも、彼らが紳士でないことは一目瞭然である。
ドナは、立ち上がりこの場からすり抜けようとするが、もうひとりが行く手をふさぐように立ちはだかる。
「どこから来たの?」「かわいいじゃない」「そのへんでお茶でもどう?」
日本語の意味がわからなくとも、ドナは下品に笑いながら近づいてくる彼らが、何を目的としているのかはおおよそ察することができる。
ドナは彼らの包囲から逃れようともがいた。
「俺の女に、何かようか!」
少し怒気を含んだ佑麻の声が響いた。
男たちの動きが止まった。その隙にドナは、男たちから逃れ、佑麻の背後に身を隠し、彼の腕にしがみつく。男たちはふたりをしばらくにらみつけていたが、舌打ちし、諦めたように去って行った。
佑麻は、男たちが離れていくのを確認すると、みずからも軽く安堵のため息を漏らし、背中に隠れるドナを振り返る。彼女がわずかに震えているのがわかる。
佑麻は、『大丈夫だよ。』と日本語で言いながら優しくドナの黒髪をなぜた。ドナにもその意味がわかったようだ。彼は買ってきたミネラルウォーターのキャップを開けて彼女に渡した。ドナは喉を鳴らして勢いよくミネラルウォーターを飲むと、少し落ち着きを取り戻したようだ。
ふたりが戻らなければならない時間がやってきたので、佑麻は芝生に残したフリスビーを拾いに行こうとすると、ドナが彼の腕にしがみついたまま一緒についてくる。仕方なく佑麻はドナを片腕にぶら下げながら後片付けをした。
「It's getting late now Donna, Wanna take a walk back home?(そろそろ時間だ。このまま歩いて帰ろうよ、ドナ)」
「Opo…(はい)」
ドナは小さくうなずく。
ふたりはそのまま腕を組んで歩いた。佑麻は、ついに腕にとまってくれた小鳥を逃がしたくなかった。ドナの柔らかさと温かさを腕に感じながら、出来るだけゆっくりと歩いた。
一方ドナは歩きながら、またもや自分を救ってくれた魔法の言葉『オレノオンナ』の意味をしきりに考えていた。
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