第11話

 バスのステップを降りると、バス停のサインに寄りかかりながら待ちうけていた佑麻が、ドナに気づく。


 佑麻が近づいて話しかけようとすると、ドナはまた後ろに下がってしまう。ドナは、デートの経験がないのでこういう時の男性との距離感がわからない。佑麻がまた一歩進むと、ドナはまた一歩下がってしまう。はじめて花を受け取った時の再現である。

 5メートルの間隔をあけ、お互い困った顔をしながら見つめあう。しばらくして、佑麻は近づくのを諦めて、少しあけた口に指を運び、手振りで『何が食べたいの?』とドナに問いかけた。

 ドナは、フォークをくるくる回して麺をからめ取り、口に入れるしぐさで答える。


「ああ、パスタ…」


 指でOKサインを出し佑麻が歩き始めると、ドナは距離を保ちながらついてきた。


 カジュアルなイタリアンレストランを見つけ、店内へ。佑麻は、フロアスタッフにテラス席を希望し、紳士らしく椅子を引いてドナに着席を促すも、ドナは彼を通り越して隣のテーブル席に座り、悠然とメニューを開く。

 驚くフロアスタッフに小さく詫びながら、佑麻は仕方なく自分のテーブルに座った。指を鳴らしてドナの注目を引くと、メニューを開いて掲げながら『何にする?』と手振りで問いかける。

 メニューは英語でも書かれていたので、ドナにもわかったが、彼女にちょっといたずら心がわいてきた。


 小さな黒板に日本語で書かれた日替わりパスタメニューを指し示し『これは何?』と首をかしげるしぐさ。


「これ? Aは、エビと小松菜のぺペロンチーニだから…」

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