第10話

 ドナは花束を受け取って以来この1週間、落ちつかない日々を過ごしている。


 もしかしたら、彼はメールを待っているのかもしれない。なら、メールを送るべきか、でも、これといって用もないのに送ったら軽い女にみられるかもしれない。やっぱりやめよう。けど、会って話したい気もする。いいや、お互いの母国語が通じない二人が会って何を話すのか。こんな問答がメビウスリングとなって頭を巡る。

 日本の看護学校の見学を終えたバスの中で、ドナはこの日もメビウスリングと格闘していた。


 バスが信号待ちで止まった。ドナがふと車窓から街に目を移すと、眺めていた街の中で、まぎれもない佑麻の姿が目に飛び込んできた。彼は両手に女性物ブランドの買い物袋を持ち、キュートな女性に腕を引かれて、楽しそうにまた次のショップに入ろうとしている。


「Napaka walang hiya nya.…(私がメール一本に悩んでいるときに、あいつは女の子と楽しく買い物かよ)」


 ドナは無性に腹が立ってきて、自分の携帯を取り出すとメールを打った。


『I'm hungry, meet me now at the bus-station close to my house!!! Donna.(おなかすいたわ。家の近くのバス停まで来て、今すぐ!ドナ)』


 ドナのバスからも、佑麻がポケットから携帯を取り出す姿が見えた。

 メールを確認している。それからの彼のあわてぶりは遠目に見ても滑稽だった。連れの女性に手を合わせて頼みこんでいる。そして、買い物袋を押しつけると、抗議する女性に目もくれず、車道の縁石につまずきながらも、プールに飛び込むようにタクシーの後部シートに転がり込む。

 彼の挙動を一部始終見ていたドナは、くすくす笑いながら、ちょっとした意地悪な満足感を味わった。


「Teka lang…sandali(…でもちょっとまってよ)」


 やがて、ドナは自分が何をしでかしたかに気づく。

 ついに佑麻を呼び出したのだ。そして彼は、今の何よりも優先して、ドナが指定する場所へ飛んでいった。

 ドナを乗せたバスが行き着くところで、彼が待っている

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