第3話


 短期体験留学は、少学生化に悩む私大が推進しているグローバル教育プログラムだ。


 このプログラムへアジアの様々な国の若者たちが参加していた。大学は早速クラスメイト達の親睦を図ることを目的に、ルーキーの為の恒例のウエルカムパーティーを催した。。

 大学でのパーティーが終わると、クラスメイトの先輩はドナを六本木のクラブハウスへ誘った。ドナは最初は断っていたものの、結局同行を了解することとなる。門限時間を守るようにノルミンダから言われているにもかかわらず、はじめての海外生活に、好奇心が勝ったようだ。


 クラブハウスの大音量に圧倒されながら片隅で飲んでいると、男達のグループに話しかけられた。身なりは小奇麗ながらも、片言の英語で近づいてくる物腰は多少強引で図々しくもあった。いかにも遊びなれた男たちのようだ。

 同席を断り切れず、グラスを重ねた。そのうち酔いがドナ達の警戒心を和らげ、先輩は気のあった男たちとフロアーへ踊りに出ていってしまった。取り残されたドナは、席に残った男から投げかけられる意味不明な英語に困惑していた。


 盛んに男は、ドナへエメラルド色のカクテルを進める。そのしつこさに根負けしてカクテルに口をつけると、甘すっぱいその飲み口が気に入った。相手の下手な英語につきあうよりは楽なので、ドナは幾度か口にグラスを運んだ。


 ドナの記憶はそこから断片的になる。どこかの一室のソファに身を投げ出されて、意識が少し戻った。先程の男が自分のからだに覆いかぶさろうとしている。事態がはっきり把握できないながらも、恐ろしいことが自分の身に起きつつあることを感じた。

 抵抗しようにも体が思うように動かない。

 自然と涙が出てきた。日本人相手に通じるわけもないタガログ語で、「Utang na loob wag naman.(お願いだからやめてください。)」と言葉を弱々しく繰り返す。

薄れていく意識の中で、ドナは別の男の声をはっきりと聞いた。


「俺の女だ。触れたら殺すぞ」


 日本語である。もちろんその意味はわからない。そしてドナは完全に意識を失った。

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