055 マジックバッグを作ろう
「さて、マジックバッグを作ってみることに決まったわけですが……できるのか? ハルカ」
トーヤとナツキは2人で訓練に出かけ、この部屋に居るのは俺とハルカ、それにユキ。すでにユキは俺とハルカから【錬金術】と【時空魔法】をコピーしているが、まだ使えるようにはなっていない。
「本を手に入れてから時間を見つけては読んでおいたし、多少実験もしていたからなんとかなるんじゃないかしら? マジックバッグに関してはどちらかと言えば、ナオの方が難しいみたいだし。大丈夫?」
「いやいや、俺だってこちらに来てからずっと練習を続けていたんだぜ? もちろん大丈夫……と思いたい」
いやマジで。かなり時間を掛けているんだから。
火魔法も練習はしていたが、より比重が大きいのは時空魔法。
どちらも魔力の制御という点では共通点があるのだが、時空魔法の方がそれが格段に難しいのだ。
そのせいもあり、火魔法はあまり練習しなくても上達していくという少し悲しい現実が。楽で良いのだが、あまり手応えの無い時空魔法と比べると……。
だがそれも、魔道書を手に入れてからはかなり改善された。レベル3で使えるという『
「それじゃ、まず私の方の下準備からね。ユキも一緒にやるわよ」
「はい、先生!」
そう言うハルカに、ビシリと手を上げるユキ。気合いは入っている。
「まずはこのページの魔法陣、これをマジックバッグにしたい物に転写します。一般的にはこの専用インクを使うんだけど、今回はこちらの糸を使って刺繍します」
「刺繍? インクじゃダメなの? 一般的なんでしょ?」
「えーっと、そうね。まず何で魔法陣を専用インクを使って書くかだけど、これはその線の上に魔力を通す為ね。で、インクで書いた線と、一本の糸で繋がった線。どちらが魔力が通りやすいと思う?」
「そりゃ、糸でしょ? 普通に考えて」
「そう。これは本に研究結果として載っていたから間違いないわ。そして魔力が通りやすい方が効果も上がる。ならやらない理由は無いわ」
「まぁ、そうよね。でも一般的じゃないんだよね?」
「効果が上がっても生産性が違うもの。ユキ、ペンで線を引く速度と刺繍する速度、何倍違う?」
「10倍以上違うよね。――そっか、多少効果が上がっても、10倍じゃ売れないかぁ」
「特にマジックバッグの場合、作ればすぐに売れるんだから、手間を掛ける意味が無いから」
マジックバッグは常に品不足と聞いている。
競争があれば、他よりも少しでも良い物を作る理由があるが、売れるのであれば生産効率を落とす意味が無い。あえて作るとするなら、コスト度外視で性能が必要な場合だろうが、そう言うのは受注生産で『一般的』に作る物では無いだろう。
「私たちの場合は未熟だから、ちょっとでも効果を上げたいからね」
「ふむふむ、解った。これを写して刺繍すれば良いんだね。でも、私がやって意味があるの? まだ錬金術、有効になってないんだけど」
「それについては以前ナオたちと話したんだけど、『スキルがあるからできる』じゃなくて、『できるようになった結果としてスキル表記される』だと思ってるの。例えばナツキ、料理スキルは無いけど、料理はできるでしょ?」
「それもそうだね。あたしもレベル1までは到達してないけど、錬金術的行為ができないわけじゃない、と」
一部の【ヘルプ】や【スキルコピー】みたいな特殊なスキルを除き、大抵のスキルはそうなんじゃないだろうか。
というか、スキル表記は結構適当な感じがするんだよなぁ。大体こんな感じですよ~、ぐらいな程度に。
実際、どういう仕組みになっているのかは解らないが、この世界の人には一般的に知られていないという事実がある。仮にクラスメイトたちだけしか影響しないのなら、あの邪神さんなら『目安になれば良いよね』ぐらいな感じでやりそうである。
「取りあえず今日の所は、ユキの分も私がインクで魔法陣を書くから、ユキはそれを刺繍してもらって良い?」
「ふ~む……ならさ、ナツキにも手伝ってもらえば良いんじゃない? ナツキは【裁縫】スキル持ってないけど、普通に刺繍できるよね?」
「……それもそうね?」
うん、と頷き、俺に視線を向けるハルカ。
はいはい、了解です。
そんなわけで、ナツキを連れて戻ってきました。
戦力にならないトーヤは1人訓練続行である。もちろん俺も刺繍に関しては戦力にならないのだが。
「お手伝いできることがあると言うことですが……」
『浄化』で汗を綺麗にしたナツキは、ベッドに腰を下ろしてそう言った。
「うん。ナツキ、刺繍できたわよね?」
「えぇ、人並みには」
そんな風に謙遜するが、多分、嘘である。大和撫子レベルの高いナツキが人並みで満足するとは思えない(俺の偏見)。
と言うか、『人並み』の刺繍ってどのレベル? 普通の人って刺繍できるのか?
少なくとも俺はできない。波縫いが精々である。
「私が魔法陣を書くから、それをナツキには刺繍でなぞってもらいたいの。お願いできる?」
「それは構いませんが、私がやって大丈夫なんでしょうか? 錬金術なんですよね?」
「ええ、多分だけど。……もしダメだったら、ナツキには無駄な作業をさせちゃうことになるけど」
「それは気にしなくて良いですよ。可能性があるなら、やる意味はありますから」
そう言ってニッコリと微笑むナツキ。
俺ならこの面倒くさそうな魔法陣を刺繍させられて、「やっぱりダメだった。てへっ♪」とか言われてたらキレるが。……いや、ハルカが「てへっ♪」は言わないか。でも、ユキなら言うかも知れない。
「まずは何に刺繍するか決めないといけないわね」
「ん? それぞれのバックパックに刺繍すれば良くないか?」
「それが、そう単純でも無いのよ。それぞれの関係性を式にすると、こんな感じね」
魔法陣の大きさ = エネルギー
エネルギー = 難易度(魔法制御力) × 魔力
エネルギー = 範囲 × 効果レベル
「ふむ。つまり、エネルギーが大きくないと大きいバッグは作れないし、効果も低い。エネルギーを大きくすると作るのが難しい、と」
「そういう事。最初に魔法陣の大きさを考えておかないと、頑張って刺繍したのに使えない可能性もあるのよ」
「じゃあさ。ハルカがバックパックに刺繍して、あたしが中くらいの麻袋、ナツキが小さい麻袋でどう? それに失敗しても、それはレベルが上がるまで置いておけば良いじゃない」
「それもそうね。完全には無駄にならないか」
確かに。バックパックへの付加に失敗するなら、中に入れる麻袋をマジックバッグにして、取りあえずはそれを使えば良いわけだ。
「あ。ところでさ、『
「それはダメね。干渉してどちらも機能しなくなるわ」
「そっかぁ。そんなに簡単じゃ無いよね」
「そう。特に、『
「なんで――あぁ、そうだよね。容量拡張が無くなるんだから、鞄が破裂するか、中の物がぐちゃぐちゃになるか」
「高価なマジックバッグも壊れますし、危ないですね」
「俺たちなら作り直せば良いが、普通に買う人はシャレにならんな、それ」
「生肉とか入れていたら悲惨だよね。血肉が飛散するだけに」
そう言ってくぷぷっ、と笑うユキ。
それは、悲惨と飛散を掛けたのか? ちょっと微妙だぞ?
「――さて、それじゃまず、ナツキの袋に魔法陣を書きましょうか」
「そうですね。お願いします」
さっさと袋とペンやインクを取り出すハルカ。
「おーい、少しは反応して? お願いだから」
「せっかくスルーしてあげたのに。5点。評価に値しません」
「厳しいっ!? ナ、ナツキ~」
「掛詞にしては、風流さが足りません。情景が汚すぎます」
「酷い!? ナオ~」
「あー、うん。……ややウケ?」
情けない表情のユキが可哀想だったので、そんな風にフォローしてみたが、イマイチだったようだ。
「気遣いありがとう。でも、もうちょっと解りにくくやって欲しかったかな? ちっともウケてなかったし」
仕方ない。だってウケなかったんだから。
ナツキの言うとおり、思い浮かぶ絵面が汚すぎる。正に俺たち、生肉を運ぶ予定だし。
「ユキ、それよりも見ておきなさい。書くから」
「はい! ――そのインクは買ってきたんだよね? 成分とか解ってるの?」
「ええ。本に書いてあるわよ。作り方も。基本的には魔石を砕いた物と
「まぁ、そうなんですか? 日本画みたいですね」
「そういえば日本画の絵の具も鉱物の粉末と膠を使うわね。ただ、これは他の加工もしてあるけど。見ての通りインク壷に入れてあるから」
どういうことかと言えば、単純に膠と顔料を混ぜた液体だと、保存性に問題があるらしい。
そのあたりの問題点を解決して使いやすくしたのが、ハルカが買ってきたこのインクである。
「すぐに使うのなら、結構簡単に作れるみたいだけどね。道具があれば買う必要も無かったんだけど……」
そんなことを言いながら、魔法陣を書き写していくハルカ。
かなり複雑な模様なのに、フリーハンドで見事に書き写していく。
「良く書けるね、ハルカ。そんな複雑なの」
「ん~、手が動く感じ? 武器スキルなんかと同じように、こういう魔法陣の書き方もある程度練習した状態なんでしょうね、レベル1だから」
俺が槍を使うとき、自然と身体が動くのと同じ感じか。
「よし。ナツキはこの糸でこの魔法陣をなぞるように刺繍していって。1本で繋がった方が良いから、途中で継いだりせずにすむように、糸は贅沢に使って」
「解りました。この糸も買ってきたんですか?」
「うん。と言っても、普通の糸を買ってきてインクを染み込ませただけだけどね」
案外単純な製造方法だった。刺繍をするのが一般的でない上に簡単に作れるので、この糸自体は売っていないらしい。
ハルカは更にユキと自分の魔法陣を描き、刺繍を始める。
俺はできることがないので、魔道書を読み返して復習しておく。練習もしたいところだが、魔力消費するからなぁ。
「刺繍枠が欲しいところですね」
「そうだねぇ。でも、あるのかな? あれって小さいネジとか使ってるから、作るの、難しそうじゃない?」
「私の場合、布が分厚いから挟めるか解らないけどね」
あぁ、刺繍枠ってあれか、丸いやつ。
確かにみんな刺繍しづらそうにしている。布を足で押さえたり、手で引っ張ったり。
「手伝おうか?」
「あー、そうね……」
俺がそう言うと、ハルカがユキとナツキを見て言葉を濁す。
「ハルカを手伝ってあげてくれますか? 一番ぶ厚くてやりにくそうですし」
「そうだね。あたしたちのはまだ持ちやすいし」
「了解」
バックパックを裏返して刺繍しているハルカは、確かに一番やりづらそうにしている。
「それじゃ、こことここを持って引っ張ってくれる? うん、そう。ありがとう」
俺が両手で引っ張って持つと、ハルカの両手が使えるようになって大分やりやすくなったようだ。刺繍のスピードも上がっている。
バックパックに使った布自体は結構ぶ厚いのだが、機械織りのような緻密さが無いので針を刺すのに力が要る様な事も無いようだ。
そうやってハルカを手伝って刺繍を進めること暫し。
「できました」
最初に完成したのはナツキだった。
【裁縫】スキルを持たないナツキだが、魔法陣自体が最も小さかったので早く終わったのだろう。
「お疲れ様。それじゃひとまずこちらは中断して、ナツキの袋に付加してみましょうか。魔力消費するわけだし」
「そうだな。その方が回復時間が取れるな」
どれくらい魔力を消費するか解らないだけに、休憩時間が取れる方が俺としてもありがたい。
「まずはリハーサル。手順を確認しましょ。まず、私とナオが魔法陣に手を置く」
「おう」
ハルカが魔法陣の端に手を乗せるのに合わせ、俺も手を置く。
「私が魔法陣に魔力を通して、待機状態にする。次はナオね」
「俺が『
「流し込まれた魔力を私が整え、終わったら魔法陣を終了状態に移行させる」
「これで終了か。よし、バッチリだぞ。イメージトレーニングだけは!」
魔道書はしっかりと読み込んでいる。
魔法をキープして魔力操作する練習もした。
後は実践あるのみ。
――できるのか? ……いや、できる。
俺には才能がある。ポイント消費したから!
「それじゃやるわよ。ユキもしっかり見ていてね」
「おう」
「うん」
「それじゃ……んっ!」
俺が手を置いたのを確認して、ハルカが魔法陣に魔力を流す。合わせて俺も魔法を発動する。
込める魔力は今俺が制御できる最大値で、それをできるだけ丁寧に魔法陣に流す。
本には『ここで制御が乱れたり、魔力が外に漏れたりすると性能が低下します』と書いてあったので、とにかく集中。ただ、思ったよりもスムーズに魔力が流れていくのが正しいのか、どうか。
チラリとハルカに視線を向けると、真剣な表情で魔法陣を見つめ、唇をギュッと結んでいる。
――あと少し。
『錬金術師が作業を完了するまで気を抜かないように』というアドバイスを思い浮かべ、丁寧に魔力を流し終える。
そしてその数秒後、魔法陣を巡っていた魔力の流れが感じられなくなり、大きくハルカが息を吐いた。
「はぁぁぁぁ。疲れたぁ。これ、案外キツいわ。ナオは?」
「俺の方は……魔力的には問題ないな。この大きさなら殆ど休みは要らないぐらいだ。ただ、精神的には疲れるな。神経を使うから」
針に糸を通すような作業。
あれが体力は使わなくても目が疲れるように、この作業は魔力は大丈夫でも精神が疲れる。
「ハルカ、どんな風に難しいの?」
「感覚的な物だから説明しにくいけど、ナオの魔力? 魔法? それを制御するのが結構大変なのよね。まだ【錬金術】がレベル1だからかしら? 素質持ちでこれだと、ユキは厳しいかも」
「もしかして、俺が魔力を込めすぎ? 一応、今制御できる範囲の最大で頑張ってみたんだが」
「それは間違ってないと思うけど……少なければ制御する時間が短くなるからその分は楽でしょうね。制御自体の難易度は変わらないけど」
魔法陣を水を入れるタンクに例えるならば、魔法陣の大きさはタンクの容量。
俺が注ぐ魔力の量は、タンクに入れる水の量。
但し、タンクの大きさにかかわらず、注ぎ口のサイズは同じ。
俺が蛇口だとすれば、ハルカはその下でタンクを持って水がこぼれないように支える役目で、注ぐ水が多ければ多いだけ、タンクが大きければ大きいだけ、ハルカは長時間、タンクを支えないといけないわけだ。
「ん? その説明だと、タンクの容量以上の水を俺が流したら、無駄になるって事か?」
「まぁ、厳密に言うとそうなるわね。かといって、水を流している途中でタンクの蓋を閉めることもできないから、理想はタンクの容量よりちょっとだけ多く注いでくれることかしら」
「え……それって、魔法陣を見て容量を判断しろと? 俺が?」
「そのへんは経験でしょうね。今の魔法陣なら、多分、4分の1? そのぐらいで良かったんじゃないかしら?」
「ぐはっ! メチャメチャ無駄な事した!?」
「初めてだから仕方ないでしょ。足りないよりはよっぽど良いわ」
確かにそうなのだが……うん、まぁ、何事も練習だよな。
いくら才能があっても初回で完璧にできるわけがない。失敗しなかったこと自体、僥倖ってヤツだろう。
「と言うと、この袋はもうマジックバッグになったんですか?」
そう言ってナツキが袋を取り上げ、中を覗いたり、手を突っ込んだりしてから首をかしげる。
見た目は何も変わってないからなぁ。
「最初は『
そう言ってハルカが氷を生成する。ピンポン球サイズの氷が2つ。
1つは今作ったマジックバッグの中に、もう1つは同じような袋の中に。それを並べて床に置く。
「これなら時間経過が比較できるね。でも、どれぐらい違うの?」
「高性能なマジックバッグなら、年単位で状態がほぼ変化しないみたいだけど……」
「素人……ではないですが、初心者が作った物ですし、どうでしょうね?」
「でも、失敗しなかったんだから、一応、規定通り? の性能が出るんじゃないか?」
「それなら一応、1万分の1ぐらいになるはずだけど……」
「ふむ……」
1万分の1ってどれぐらいだ?
1年間放置すると、袋の中は……。
「それなら、食べ物の保存に関しては問題無さそうですね」
「そうね。さすがに熱い物、冷たい物はダメでしょうけど」
「でも、1ヶ月入れておいても5分足らずでしょ? 殆ど実用上は問題ないんじゃ無い?」
1ヶ月で5分なのか。なら1年でも1時間足らず。
うん、生ものでも安心だな。刺身を食べられるかもしれない。
「上手くいっていたら、よ? 時計でも作れたら正確に測れるんだけど……」
「錬金術事典には載ってないのか?」
「載ってるけど、まだ私には無理そうね。レベル1だし」
「マジックバッグは作れるのにな」
「マジックバッグが希少なのは、時空魔法の使い手がいないからだもの。錬金術の難易度としては簡単な部類みたいよ」
なるほど。だからハルカでも作れたのか。
「それよりも刺繍を進めましょ。ナツキにもまた頼んでも良い? 練習も兼ねて、できるならたくさん作りたいし」
「えぇ、構いませんよ」
そうして日が落ちるまでに、ハルカが刺繍したバックパック1つ、ユキが刺繍した袋が2つ、ナツキが追加で作った1つの計5つのマジックバッグが完成した。
うち1つは、【錬金術】が有効化されたユキと俺が作った物である。俺も魔法陣に合わせておおよその魔力量が調節できるようになっていたので、ユキも失敗すること無く完成させたのだった。
「さて、『
「はい。見た感じだと、ほぼ変化無しですね」
「『
手持ちの品物で重そうな物をとにかく詰め込んでみた袋を、片手で軽々と持ち上げるユキ。
こちらも計測器がないので解らないが、俺が持ってみた感じもユキの意見とそう変わりない。
「ここまで効果があるのでしたら、半分の効果でも『
「確かにそうだけど……2つは難しいわよね?」
そう言うハルカに、俺は頷く。
一応、練習はしてみたのだが、2つの魔法を同時に展開して維持、それを魔法陣に均等に流し込むという困難な作業が必要になるのだ。一朝一夕にできるようになるとは思えない。
「でも、これらは全部成功させたわけだし……ナオ、なんとかなるんじゃない?」
「いやいや、かなり難しいって。例えるなら、ピアノを片手で弾くのと両手で弾くのとの違いぐらいはあると思う」
「ふむ。つまり『
気軽に言ってくれるなぁ、おい。俺も、一応練習してるんだぞ?
「そんな簡単に――」
「そういえば、ユキって弾けたわよね、電子オルガン」
「……え、マジで?」
「うん、まぁ、多少は?」
小首をかしげながら、軽くそんな風に言うユキだが、ハルカは首を振る。
「多少って……かなり上手かったじゃない」
くっ、比喩をミスった。できる人に『練習すればできる』と言われてしまえば、練習するしか無い。
しかも、『才能』があるので、『俺には才能が無いから』なんて逃げも通用しない。
ははは……ある意味シビアじゃね?
「しかし、良く弾けるよな、あんな複雑なの。途中で音色を切り替えたりとか、滅茶苦茶面倒くさそうなのに」
「そうですね。私もピアノは弾けますけど、電子オルガンは……」
「んー、まぁ、音色は自動で切り替えたりも出来るし、さすがに足では複雑なメロディは弾かないからね。最初はさすがに混乱するけど」
「そうかぁ、練習かぁ……ん? そういえば、ユキ、時空魔法の素質、持ってたよな?」
「あっ」
しまった、と言う表情で口に手をやるユキに、俺はニヤリと笑う。
「よーし、よしよし。教えてやるぞー。一緒に練習しようぜぇ」
「あー、いやいや、あたしは錬金術の方を……」
「どうせ覚えないといけないんだから、一緒に頑張りなさい。刺繍の方は私とナツキで頑張るから」
「見捨てられた!?」
「くっくっく、時空魔法の難しさ、ユキも思い知るが良いわ!」
「くっ、卑怯な!」
「道連れだぜぇ~~」
いや、だって、魔法の練習って、とにかく精神をすり減らす地道な作業なんだもの。1人練習していると、気分も暗くなる。
しかも、時空魔法は目に見えないだけに、火魔法の練習に比べても特にその傾向が強い。端から見たら、ただひたすら唸っているだけにしか見えないのだから。
それでも道連れ――いや違う、一緒に切磋琢磨する相手が居れば、少しはそんな気分も緩和されるだろ?
だが結局、俺が2つの魔法を付加したマジックバッグを作れるようになるには、今しばらくの時間が必要になるのだった。
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