056 何で稼ごう?
「少し休みが長くなったけど、今日から稼ぐわよ!」
「「おう!」」
ハルカのかけ声に、俺たちは声を上げ、ユキとナツキも頷く。
「2人も、ボーナスアイテムのディンドルが無くなって少し大変かも知れないけど、頑張りましょうね」
「はい。でも、正直なところ、私たちは少し安心したところもあります」
「そうなの?」
「うん。だって、今までずっとハルカたちが稼いだお金で生活してたでしょ? 正直、心苦しくて。これから一緒に稼いだお金で、土地を買って家を建てるとなれば、気持ち的にも楽になるし、希望も言いやすいからね」
「そこは気にしなくても良いけど……うん、気持ちは解るわね」
ユキとナツキは自分たちが稼いだお金を渡そうとしてはくれたのだが、あまりに微々たるお金だったので、ハルカも受け取っていなかったのだ。
稼ぎが1日100レアだけで自分たちの着替えなども買ったりすれば、当然ながら大して残るわけが無い。
「ハルカ、このまま森に行くのか?」
「いいえ、一応ギルドに寄っていきましょ。何か良い依頼があるかもしれないし」
「それもそうだな……というか、俺たち、まともに依頼を受けてないよな?」
「お金が稼げるなら、リスクを取る必要も無かったからね」
依頼を受けて達成できなければ、当然ペナルティがある。
それを避けるために無理をすれば、リスクが高くなる。
採取依頼などの簡単な物でも、それが見つからなければ森の奥へ入ることになるわけで、無理をしないために依頼を受けないというハルカの判断は、間違っていないだろう。
「無理をしないという方針は変わらないけど、5人になったわけだし、簡単そうな依頼なら請けてみるのも経験だしね」
「そうだな。あっ! そういえば、トミーが梅園をギルドで見かけたって言ってたぞ」
「梅園……あぁ、アイツか。出会ったら面倒だな」
「そうね」
「梅園さんって、コピーして逃げたって人だよね?」
「ボーナスキャラの人ですね」
「だから、【スキルコピー】はボーナスキャラじゃないって! それ自体は人畜無害なんだから!」
「そうでしたね、役立たずでしたね」
「仲間が居なければね! あたしはもう
「そうですか? まだ【スキルコピー】の必要ポイント分のスキルもコピーできてないと思いますが」
「ぐっ……そうなんだよねぇ。やっぱり【スキルコピー】の元を取るのは厳しいなぁ……」
殆どのスキルは、5ptでレベル1だからな。単純計算なら20個である。
素質無しの魔法取得なんかは10pt必要だったが、そもそも人間の場合、素質無しだと魔法使えないし。
俺たち4人のコピーできるスキルを全部コピーするぐらいじゃないと、元が取れない。
「ほらほら、ナツキもユキを弄って遊ばないの。ここは少し手間だけど、ユキかナツキに先に偵察してもらった方が良いかしら?」
「偵察なら私ですか? 【隠形】ありますし」
あぁ、あの存在感がなくなるやつ。
あれ使われると結構ビビるんだよな、気配が無くなって。
「大丈夫じゃ無いか? トミーの話だと、ディオラさんに『当分仕事は紹介しない』と言われてキレてたらしいし。仕事を放り出したとかで」
「それってあの時のじゃない? 喫茶店の」
「捨て台詞を残して走って行ったやつか。あの喫茶店で働いていたっぽいもんなぁ。そりゃギルドに苦情も入るか」
仕事も無くなってどうしていることやら。可哀想……でも無いな。自業自得だから。
あの捨て台詞が無ければ、少しぐらい手助けしてやる気にもなったかも知れないが。
せめてトミーぐらいの可愛げは欲しい。もちろん、外見じゃ無くて内面な。梅園も外見だけは悪くなかったし――アイツ、あんな外見だったっけ?
何か外見関係のスキルを取った可能性もあるが……どうでも良いか。
「それじゃ、気にせず行きましょうか。もし出会っても、基本無視ということで」
「おっけー」
「わかりました」
◇ ◇ ◇
数日ぶりに訪れたギルドだったが、特に何の変化も無く平穏だった。幸い、面倒くさい人もいない。
俺たちはディオラさんに軽く挨拶をすると、全員で掲示板の前へと移動し、依頼を見ていく。
思えば、こうやってじっくり見るのは初めてだよなぁ。
「こうやってると、ファンタジーって気がしてくるよな!」
「それは同感だが、依頼内容は……うん、冒険者っぽさは少ないな」
殆どが採集依頼、一部に護衛依頼はあるが、向かう方向は南で、俺たちが避けている森の側を通る。サールスタットがある東方面への護衛依頼は無い。言うまでもなく、ほぼ安全だからだろう。
「う~ん、どれを請けるのが妥当かとか、全然解らないね?」
「はい。『何々を採ってこい』と書いてあるだけで、危険性は解らないです」
「採集依頼はそんな感じみたいね。全部自己責任。護衛依頼の場合は、一部ランク指定があるみたいだけど」
依頼品を採りに行くのにどの程度の危険が見込まれるか、それを考えるのも冒険者の仕事と言うことなのだろう。
「お、注意情報があるぞ? 『東の森でヴァイプ・ベアーの目撃情報あり』だと」
「あれか……」
トーヤの指さしたそのチラシに俺とハルカが顔をしかめる。
出会っていないナツキとユキはよく解らない様子で首をかしげる。
「それって強いの?」
「あぁ、命の危険を感じたな」
「そこまで!?」
俺の素直な感想に、ユキとナツキが目を丸くする。
「いやいや、あの時と今の俺たちは違うだろ。技術も上がったし武器も正に桁違い。そう脅威じゃ無いと思うぜ?」
「確かに、値段だけなら二桁違うが……大丈夫か?」
「おう! オレに任せておけ。ヤツはすでに見切った!」
そう言って、フッと格好つけて笑うトーヤ。マジで大丈夫か?
「トーヤの言はともかく、ユキとナツキも入ったんだから、及ばないことは無いでしょ」
「まぁ、なぁ」
こっちに来て数日の俺たちでも斃せたわけだから、ハルカの言うとおり、気を抜きさえしなければ死ぬようなことは無いはずだ。
俺も索敵に力を入れるか。うん。
「あれ、『グレート・サラマンダーの
お、本当だ。
注意書きに『仕留めてすぐに凍結すること』とある。
『50センチ以上で金貨20枚から』か。
「サラマンダーってヤバそうじゃないか? 少なくとも最初の頃に出てくる敵じゃないだろ、ゲームなら」
「うん、火山地帯とかで出てきそうだよね!」
しかも『グレート』付き。如何にも強そうである。
名前だけなら。
「よく見てみろ。『
「大山椒魚の事じゃないですか?」
「こっちでも食べるのね、あれ」
今じゃ特別天然記念物で大事にされているあの生物。昔はうまうまと食べられていたらしい。名前も肉が山椒の香りがするからとか何とか。
見るからにゲテモノに属するあれを食べるとか、さすが日本人である。
「うわー、大山椒魚と言われると、なんだか一気にグレードダウン」
「名前格好良すぎだよな」
「あれって確か、火に放り込んでも表面の粘液でなかなか燃えないから、だったか?」
「そういう説もあるわね。でもこれ、買い取り価格は高いけど、獲れる場所と持ち帰り方法次第よね。最低50センチだと、バックパックからはみ出るわ」
手持ちのバックパックのうち、昨日マジックバッグにしたのは2つのみで、付加したのは『
他3つのマジックバッグも、バックパックの中に入るサイズで、あまり大きくはない。
つまり、バックパックに入らないサイズの獲物の場合、マジックバッグの恩恵が受けられないのだ。
もちろん、ぶつ切りにしてしまえば入るだろうが、書き方的にそれじゃダメなのだろう。
「これを狙うなら、大きい袋を手に入れないとダメだな」
「そうね。これ以外にも必要なことがあるかもしれないし、買っておいても良いかもね」
「そうですね。となると、狙うとしても明日以降ですか」
「ディオラさんにも相談した上で、ね」
他の依頼も一通り見るが、これと言って気になる物も無かったのでディオラさんのところへ移動。
「おはよう、ディオラさん」
「はい、おはようございます」
「ヴァイプ・ベアーが出るって書いてあったんだけど」
「はい。マジックキノコが生えているらしく、それを狙って出てきているみたいです」
マジックキノコ! なんてヤバそうな名前のキノコだよ!
「マジックキノコですか?」
「ええ。ヴァイプ・ベアーの好物みたいですね。そのまま食べると幻覚を見るキノコなんですが、痛み止めの材料になりますから買い取りもしてますよ。採りに行くとヴァイプ・ベアーと鉢合わせする可能性があるので、品薄なんですよね」
名前だけじゃ無く、本当にヤバいキノコだった。
痛み止めというのも、麻薬成分が含まれると考えれば妥当か。
「ディオラさん、どんなところに生えるんだ?」
「行かれるんですか? トーヤさんたちなら大丈夫だとは思いますが、気をつけてくださいね? 生えるのは倒れてから1、2年ぐらいの木ですね。他のキノコが生える前の段階で生えるみたいです」
1、2年なら木の種類にもよるが腐り始める前だよな。まだ生木の状態で生えるとか、強い菌なのか?
「時々ヴァイプ・ベアーが無意味に木を倒したりすることがあるんですが、一説にはマジックキノコを生やすためにやっているという話も聞きますね。眉唾ですけど」
いや、世の中にはキノコ栽培するアリも存在するらしいし、一概に嘘とも言えないと思うぞ? マジックキノコを採りに行く俺たちは、ヴァイプ・ベアーからすれば、さしずめ作物泥棒だろうか。
逆の立場なら、「農家さんの苦労を考えろ!」と言う所だが、俺たちは利己的な人間なので、さっくり採らせて頂きます。
「グレート・サラマンダーについても聞いて良いかしら?」
「ハルカさんは水魔法が使えるんでしたっけ? 生息しているのはサールスタットの川をずっと上流に遡ったあたりですね。危険性は少ないですが、利益としては少し微妙ですよ?」
「そうなの?」
「はい。結構距離がありますし、捕まえた後は魔法で凍結状態を維持したまま、急いでここまで帰ってくる必要がありますから。50センチぐらいだと少々赤字、1メートルぐらいの物を捕まえられれば、それなりに儲かる、ぐらいですね。もちろん私たちとしては、請けて欲しいんですけど」
遠いのかぁ。
俺たちは5人パーティーだから、最低でも1日金貨15枚ぐらいは稼がないと、社会人の仕事としては良いとは言えないだろう。経費を考えれば、その倍を最低としたいところ。
グレート・サラマンダーなら50センチサイズ1匹じゃ足りない。
「う~ん、そうね、そのへんも相談して考えるわ。ありがとう。それじゃ行ってくるわね」
「はい、お気を付けて」
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