033 帰還 (2)
「ん? キャラレベルってなんだ? そんな物無い――」
妙なことを言ったユキの言葉をトーヤが否定しようとしたが、そこにハルカが口を挟んだ。
「いいえ、実はあるわよ、キャラレベル……的な物」
「え、マジで?」
「ええ、マジで」
あれぇ? 無いって言ってなかったっけ?
いや、『ある』と言わなかっただけだっけ?
「おぉ! こんな所にゲーム要素が!」
「ハルカさん、そんな話聞いてないんですけど」
「そうね、言ってないわね」
「何で今まで教えてくれなかったんだ?」
教えてくれていれば――
「以前スキルの話をしたとき、経験値の話も出たでしょ? つまり、そういう事よ」
あの時の会話を思い出す。
……なるほど。
言わなくて正解か。
「どういうこと?」
あの時いなかったユキが訊ねると、ハルカはため息をついて答えた。
「キャラレベルの存在を話したら、ゲーマーなナオたちは無茶しそうって事。そんなナオたちを止めるのは正直――面倒だし」
本音のぶっちゃけ、来ましたわー。
でも、否定できないところが悲しい。
知らなければ無理しない。正論である。
「ナツキたちが入れば、万が一の時にフォローできる可能性も増えるからと思ったんだけど……秘密にしていたのは本当だし、ゴメンね」
「ああ、いや、別に実害が無いから謝るほどじゃないぞ」
「そうだな。特にトーヤは怪しいし」
「え、そうか?」
なぜそこで意外そうな顔をする?
実績ありだろ?
「だってお前、何度か『討伐依頼、請けよう』って言ってただろ? レベルが上がると言われたら?」
「……もっと言ってましたね。すみません」
自分のことを理解したのか、素直に頭を下げるトーヤ。
ま、俺もトーヤのことをどうこう言えるほど、抑制的に行動できたとも思えないんだけどな。
「そもそもの話として何ですが、キャラレベルってなんですか?」
概ね共通認識のある俺たちに対し、ナツキはキャラレベル自体がよく解らなかったらしく、そんなことを聞いてきた。
俺とトーヤがゲームをやる、ハルカとユキは【異世界の常識】持ち。どちらでも無いナツキにはイマイチ、ピンとこないのだろう。
「ユキ、ナツキにも話してなかったの?」
「あ、うん。そもそもあたしたち、街の外にも出てないからね」
「じゃあ、この機会に説明しておこうか。キャラレベル――この世界ではそんな呼ばれ方しないけど、解りやすいから、この呼び方にするわね。これはステータスを見ても解るとおり、表示されてないわよね?」
「ああ」
ステータスで解るのは、名前、種族、年齢、状態、スキルの種類とレベルのみ。
これだけでもこの世界の人に比べれば十分にチートっぽいが、その中にキャラレベルは含まれていない。
「じゃあ、実際に無いのかと言えば……」
「あるんだよな?」
「――解らない」
「あれ?」
ちょっと溜めて言ったその言葉は、拍子抜けする物だった。
俺たちの何とも言えない微妙な視線を向けられ、ハルカはちょっと困ったようにパタパタと手を振り、慌てて言葉を付け加える。
「公式には不明、ということね。状況証拠からあるんじゃないか、とは言われているけど、確認方法が無いから証明できない」
具体的には、魔物を討伐する場合と、魔物以外を討伐する場合、似たようなことをしているのに前者の方がより強くなるという。
「ふーむ。同じような体格なのに、明らかに筋力に差があるとなれば、何か見えないパラメータがあると考えるのが普通か」
例えば、俺が背筋100kgで、マッスルマッスルな人が背筋300kgだとすれば、それはそう不思議では無い。
しかし、俺がマッスルマッスルにならずに背筋300kg、400kgとなっていけばそれは明らかに異常である。
「いやいや、実はもっと解りやすいのがあるのよ。例えばナオに女の子が包丁を突き立てたらどうなる?」
「え? 刺さるだろ? というか、なんでそんな例えなんだよ……」
不穏な例えは止めてくれ。
「何となく? まぁ、普通に刺さって、場合によっては死ぬわよね。だけど、高ランクの冒険者の場合、これが刺さらない。不思議なことに」
「は? 避けたわけじゃ無く? いやいや、不思議すぎるだろ!?」
「鉄の鎧を着ていた……というオチではないですよね?」
「それ、不思議でも何でも無いじゃない。普段着でも、よ」
「解った! 下に鎖帷子を着込んでいたんだ!」
「なるほど。高ランクになると、女の子に刺される危険も想定して準備しているワケか」
ナンパな高ランク、嫌なヤツである。
「じゃあ、ナオは服の下に漫画雑誌でも挟んでおくのね」
「えぇ!? 俺、刺されるような事してないぞ。だよな?」
そう言って3人を見るが、なぜか視線が合わない。
え? 肯定してくれないの?
「ま、ナオがたらしかどうかは置いておいて――」
あれ? そんな話だったか?
是非とも異議を申し立てたいところだったが、話が進まないので口をつぐむ。
「装備とか関係なく、単純に刺さらないの。気を抜いていたらちょこっとは刺さるみたいだけど、致命傷にはならない。まるで身体の表面にバリアか何かあるみたいにね」
「それはもう、身体を鍛えているからという次元じゃないな」
「『筋肉ではじき返す』なんてギャグの世界だもんな」
しかし、それが本当なら、キャラレベルを上げていけば、そうそう怪我しなくなるのか。
――良いな。
正直、リアルな肉体強度でヴァイプ・ベアーレベルの敵と普通に戦えるとは思えない。
1ヒットでほぼ死亡とか、ハードモードすぎる。
「ま、これはわかりやすい例だけど、筋肉量とは関係なく身体能力が上がったりする事実がある以上、単純な鍛錬とは異なる何かがあることは確かと言えるでしょうね」
「それをレベルアップと仮定して、訓練で上がるのか? いや、さっきのユキの話だと、魔物を斃すと上がるのか?」
「効率が良いのは魔物の討伐と言われているわね。普通の獣や人を殺してもあまり意味が無いというのが定説ね」
計測ができないから実験もできず、実験ができないから証明もできず、か。
魔物を斃すと効率が良いというのも経験則なわけで。
「違いは……魔石の有無、か?」
「どうなのかしら? 一般的には神の意志に反するから、というのが有力みたいだけど」
神の意志?
普通ならあり得ないと一笑に付すところだが。
「神かぁ~~。オレ、無神論者だったんだが、アレに会った以上、何かしらの神的存在が居るのは確かなんだよなぁ。これがオレの夢でもなければ」
「じゃあ、私は夢の登場人物? ま、この世界では神の実在は信じられているわね。本当かどうかは解らないけど、神託や降臨というのもあるみたい」
元の世界のように曖昧な物じゃ無く、大半の人が信じる程度にはしっかりとした記録が残っているらしい。
「でも、神が実在するなら、戦争は起きないのですか?」
「まさか。魔物がいる関係で少ないみたいだけど、国家間の戦争自体はあるわね。――『にんげんだもの』」
「この流れで、その語尾はどうなんだ? あー、つまり、あんまり神は尊重されてない?」
「大抵の人は尊重しているんだろうけど、それとは別問題、なのかしら」
「まぁ、地球でだって、神の名の下に起こされる戦争って多かったからなぁ。宗教家が自分たちの戦争は神の意志に則っているとか言うんじゃないか?」
「そだね。神託があることと、神託が本当であることは別問題だからねぇ」
ユキが苦笑して、肩をすくめる。
降臨レベルになるとそうそうごまかせないが、神託は神殿が発表するので、一般庶民には本当かどうか判断がつかない。
故に、神殿も一時期神託を乱発したことがあり、最近では、あまりに神殿に都合の良い神託は無視される傾向になってきているとか。
「でも、神が実在するなら天罰とかないんでしょうか?」
「『自然災害が天罰だ』みたいな記録はあるけど、どうなのかしら? 私としては、殆ど介入してないと思ってるけど。現に私たちはこの世界に転移してきているわけだし」
「ん? 俺たちの転移が何か関係あるのか?」
「あの邪神が言っていたように、いわゆる転移って、邪神と呼ばれるほどにルール違反なワケよね? にもかかわらず、他の神の介入は無くて私たちはここに居る。つまり、そういったルール違反も放置するわけだから、多少戦争が起きたぐらいで介入なんかしないんじゃないかな?」
「ふーむ……一理あるな」
世界を跨ぐようなイレギュラーでも放置なら、その世界に住む人間がやる事なんて関与しない可能性が高い。
そうなると、神託や降臨があると信じられているのが謎だが、これを本当に神が行っているとは限らない――つまり、宗教的なトランス状態や、精神病的ななんやかやという可能性もあるわけだから、あまり気にする必要も無い、のか?
「ま、今のところ、魔物を倒すと強くなれることだけ解っていれば良いんじゃない?」
「そうですね。私たち一般人が、国家間の戦争や宗教に関わる事なんて無いですよね」
「わ、ナツキ、言っちゃった。それはフラグってヤツだよ」
「そうですか? でも私たち特に強いわけでも、目立つわけでも無いですよ?」
あちゃー、みたいに言ったユキに、ナツキが不思議そうに応える。
確かにその通りなんだが。普通なら。
「普通なら大丈夫だけど、クラスメイトという懸念材料があるでしょ」
そうだな。
トラブルを引き込むスキルたくさんあったな。
「あーー、関わらないようにしましょう。絶対に」
真剣な顔で言うナツキに、俺たちは揃って頷いた。
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