034 生存率

「実際問題、クラスメイトってどのくらい生き残ってると思いますか?」

「種族を変えたら解りにくいからなぁ。俺たちが把握している範囲では、ラファンで【スキル強奪】を使って死んだのが、4人か5人」

「サールスタットだと3人かな? これは多分正確。酒場で話を聞いたから」

 そんなに広くない街なので、同日に3人不審死が発生すれば、それなりに噂になったらしい。

「トミーから聞いたのもあっただろ。田中と高橋だったか? 確実に死んだの」

「確実に死んだ? それにトミー?」

「ああ、トミーは若林のことな」

 不思議そうにするユキに、トミーから聞いた話を伝える。

 その境遇に、ヘルプを取っていなかったユキは『地雷スキル、マジコワイ』と顔色を悪くした。

「若林くんがドワーフですか……想像できませんね」

「あぁ、俺たちも言われるまで気付かなかった」

「口調が変わってなかったから、違和感、ハンパなかったな」

 できればオッサン喋りにして欲しい。

 まぁ、これもある意味偏見なんだろうが。

 ドワーフにだって子供や若者はいるはずだから、全員がオッサン喋りなはずがないよな。

「あたしたちは結局、クラスメイトとは知り合わなかったけど、ハルカたちも若林君だけ?」

「そうね――」

「アイツがいただろ、えっと、梅園」

「……ああ、いたわね、そんな人も」

 あの時を思い出したのか、ハルカが少し眉をしかめる。

「どうしたんですか? 何か不機嫌そうですが」

「いや、梅園がハルカに喧嘩を売ったから」

 あの時の状況を2人に話してやる。

 アイツもわざわざ捨て台詞を残して、ハルカの敵になる必要も無いだろうになぁ。

「わっ、梅園さん、チャレンジャー! ハルカに正面から喧嘩売るとか、無謀すぎ!」

「ユキ、なに、その言い方。まるで私が怖い人みたいじゃない」

 ハルカがニッコリ笑うが、その微笑みがちょい怖い。

「いや、あたしたちは別にそう思わないけど、クラスメイトでハルカに面と向かって喧嘩を売る人、いる?」

「いませんね。素直に白旗を揚げる。それが賢い処世術というものです」

 うんうん、と頷きあうナツキとユキ。

 男子でもハルカに喧嘩を売るバカは、まずいないよな。

 ハルカだけじゃ無く、他の女子の大半から嫌われるリスクが高すぎる。

 学校に於いて、女子に嫌われても気にしない、と思う男子がどれだけいるだろうか?

「酷いわっ! 明らかに私が被害者なのにっ! ――客観的に見て」

 『われるままにスキルを教えてあげたら罵倒された』、確かに被害者という図式ではある。

 嘘くさい口調がすべて台無しにしているが。

「ま、それはどうでも良いのよ。彼女は脅威じゃ無いし」

 これである。

 そのあっさりした割り切りと冷静さが、ハルカの強さと怖さなんじゃないか?

 まぁ、その『強さ』のおかげで、俺たちが比較的平穏に生き残れている部分もあると思うが。

「クラスメイト、解っているだけでも、25%は死亡なのよね。迂闊な人、多すぎじゃない?」

「と、ハルカさんは供述していますが、トーヤさんの考えは?」

 俺が話を振ると、トーヤの見解は――

「ハルカが少数派。地雷満載のキャラメイクで、死亡率25%ならまだ低い」

「俺も同感かな」

 一見すると微妙そうな【ヘルプ】を取った人が生き残って、それ以外は大半が死亡でもおかしくないぐらい。

「だよなぁ。あれだけ強そうなスキルが並んでいる状況で【ヘルプ】を取り、【異世界の常識】をもらって、こっちに来てもかなり慎重にやってるだろ? 自慢じゃ無いが、オレ一人なら数日でゴブリン討伐とか受けてた自信がある!」

「同感。俺はたまたまポイントに余裕があったから、【ヘルプ】も必要経費と考えられたが、ギリギリだったら、チートっぽいスキルを選ばなかった自信は無いな」

 ホント、あの時に悩みつつも【ヘルプ】を取った俺に賞賛を送りたい。

「だよね! あれだけ魅力的なスキルがあったら、取っちゃうよね!」

「さすが【スキルコピー】を取った人は言うことが違いますね」

 我が意を得たりと、ウンウンと頷いていたユキが、ナツキに突っ込まれて情けない表情を浮かべる。

「それはもう言わないでよ~~。後悔してるんだから」

「いえいえ、現状では有益だと思いますよ? 私たち全員から学べるんですから」

「だよね!」

 気を取り直して嬉しそうに頷くユキに、ハルカが再び水を差す。

「でも、どれを伸ばすか決めないと、器用貧乏になるわよ? 訓練も大変だし」

「だよね……」

「でも実際、俺たちの持つスキルの半分でも使えるようになれば、レベル1でも凄いだろ?」

「うん、頑張る! みんな、よろしくね!」

「教えるのは構わないが、結構厳しいぞ? オレたち、これでも毎日数時間は訓練に充ててるんだから」

「あー、やっぱりそれぐらいは努力してるんだ? まぁ、当然だよね。楽して成果を上げられるわけ無いし」

 ハルカとユキ、ナツキの3人は、容姿の面ではともかく、勉強などでは天才タイプでは無く秀才タイプ。

 結構真面目に勉強しているし、球技大会などの学校行事の時にも練習に参加している。

 それでしっかりと結果を出すあたりは、ある程度恵まれている部分もあるのだろうが。

「私もこちらでは身体が丈夫になりましたし、頑張らないといけないですね」

 元の世界のナツキは、運動神経こそ悪くなかったが、体力面では少し劣っていたんだよな。

 学校を休むことも時々あったし。

 反面、元気だったのがユキ。

 体力面では3人の中で一番だった。

 中間がハルカだが、要領の良さでユキに勝るとも劣らない結果は出していた。

 女子全体で見れば、まぁ、2人とも上位だろう。

「でも、実際、どれくらいの人が【ヘルプ】を取ったでしょうか?」

「女子はあまりゲームをやらないから【ヘルプ】を取る可能性も高いと思うけど。実際、ナツキは取ったでしょ? それに、チートは無いという忠告もあったんだから、それを信じて危ないスキルを避けた人もいるんじゃない?」

 ハルカ曰く、世紀末的な世界ならともかく、比較的普通な世界なんだから、仮に冒険者にならなくても日銭を稼ぐ程度なら何とかなるだろう、と言うことなのだが……。

「いやー、どうだろうなぁ? 女子なら【ヒロインの資質】とか、【魅了】とか、【魅力的な外見】とか、ポイントがギリギリならそっちを選びそうじゃないか?」

「逆にゲームやラノベ好きなら、何も考えずに【スキル強奪】や経験値倍増系を取りそうだよなぁ。トーヤやトミーみたいなこだわりでも無ければ」

 深く考えなければ有利そうなスキルだからなぁ。

 トミーはドワーフに憧れて、【蟒蛇】や【鍛冶】みたいな、如何にもなスキルを取ったんだよな。

「そういえば聞いていませんでしたが、トーヤくんはどうして獣人にしたんですか?」

獣耳けもみみの嫁さんが欲しい!!」

「「……なるほど」」

 トーヤの力強い宣言に、ユキとナツキは静かに頷いた。

 その心中は解らないが、ツッコミは無かった。

 良いんだぜ?

 『アホか!』ってツッコんでも。

 ――いや、無駄にツッコむとトーヤのケモナー語りが始まるから、これで正解か。

「でも、チートが無い世界で良かったわよね。あの辺のスキルが何の地雷も無しに猛威を振るっていたら、どう考えてもこの世界の人たちには迷惑だもの。私たちも暮らしにくくなっただろうし」

「まぁ、だよなぁ。チート同士の争いやら、ハーレム野郎やら、逆ハーレムやらで色々と」

「そうそう。私たち小市民は平穏に暮らせれば良いのよ」

「「小市民……?」」

「ハルカが……?」

 意外な言葉を聞いた俺たちの口から、そんな疑問がこぼれ落ちた。

「え? 目立たないように気を付ける、危険な仕事はしない、真面目に仕事をしてコツコツとお金を貯める。ほら、どこから見ても小市民」

 一つ一つ指を立てながらそんなことを言うハルカだが、俺たちは微妙な表情で顔を見合わせる。

「確かにそれだけ聞くと小市民だよなぁ。なのに、何でだ?」

「イメージじゃないでしょうか。ハルカって、リーダーシップがありますし」

「行動力もあるよな。あのまま成長してれば、起業とかしてそう」

「ああ、正にそれ、そんな感じ! 女性起業家!」

 ユキの言葉に、うんうんと頷く俺たち。

 何か、普通に大学に進学、就職活動をして、OLになるという未来が想像できない。

「それは褒められているの? まぁいいわ。どれだけ生き残ってるか解らないけど、あえて探したり、関わったりはしないようにしましょ。それとも誰かは探したい人がいる?」

「私は無いです。信頼できそうなのはこのメンバーだけですし」

「あたしも同じかなぁ。遊びに行く程度ならともかく、命がかかる場面で信頼できるかというと……」

「オレたちは前に言った気もするが、無いぞ」

「ああ。トミーみたいに、たまたま出会えば普通に対応するぐらいで良いだろ」

 但し、地雷スキル、てめーはダメだ。

 持っていたら積極的に逃げる方向で。

 そんな俺の提案は、全員の一致をもって可決された。

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