第31話~彼の本当の狙い
ジェスは、ごくりと唾を飲み込む。
勝てる相手ではない! 逃げ切れる相手でもない!
「全部指示したんですか? あの水責めも……」
「あぁ。そうだ」
「彼女達も殺す気だったんですか!」
「あの親子にもそろそろと思っていたからな」
愕然とする答えが返って来た!
アーバテもアルドヘルムの悪事に加担する仲間だったようだ。
「だからってあの子達まで……」
この話を知った所で、ジェスにはどうにも出来ない。ここで殺されるのだから!
「もし、僕があなたの正体に気づかなかったらどうしたんですか?」
アルドヘルムならランベールを殺した後、すぐにでもジェスを殺せたはず。まるで残念がる台詞も言っていた。
ジェスは、もしかしたら殺さずに仲間に引き入れる気でいたのではないかとふと思ったのだ。
「見逃すチャンスをやったんだけどな。だが君は従順ではなさそうだ」
「そのチャンス。もう一度与えてくれませんか?」
「うん?」
ジェスの意外な言葉に、アルドヘルムも眉間に皺を寄せる。
「命乞いか? もし他の奴に言ったとして、君の言葉を信じるものなどいないとわかっているか?」
ジェスは頷く。
「十分でいい。僕があなたから逃げて生き延びていたら、見逃して頂けませんか?」
勝てないのも逃げられないのも承知の上での取引だった。
「いいだろう。私も総隊長になってから表舞台に出てなくてな。体がなまっていた所だ。楽しませてくれよ、ジェス!」
そう言いつつアルドヘルムは、術を仕掛けて来た!
それをジェスは、転がりながら何とか交わす!
アルドヘルムは、ジェスの話に乗って来た。という事は、ジェスのSOSは、彼によってかき消されたという事だろう。つまり助けはこない!
だがジェスは、このチャンスに賭けていた!
「最初、僕が対象じゃなかったって言いましたね? 何が目的だったんですか?」
ジェスは立ち上がりながら聞いた。
死ぬかもしれないが、知りたかった。
「随分余裕だな!」
ハッとしてアルドヘルムが撃った術を避けるもジェスはまた地面を転がった!
「避けたか。いいだろう。教えてやる。イッロ宅にレネを向かわせる案が出ていた。それにリズアルを提案したのは私だ!」
「え!?」
アルドヘルムの言葉に驚いた。最初から聞かされていた話と違っていたのだ!
「そう、だから君も行く事は決定していた。だが君に断られれば、ディルクの事もありリズアルは行かない事になる。だから断れない様にぎりぎりに呼び出したのだ」
「なぜリズを……」
ジェスはハッとする。ゼノが言っていた、魔女だと知ったら狙われると言う言葉を思い出す。
「気が付いたか? ランベールに命じマジックアイテムを横流ししていたのは私だ! 彼が盗みそれをアーバテに流していた。それもそろそろ潮時だと思ってな。どうせだから君には魔法陣の練習台になってもらう事にした。君達を殺してもいいと命じてあったんだけどな。何一つ出来ずに逃げて来た」
冷ややかな目で、目の前に横たわるランベールを見てアルドヘルムは言った。
ジェスは、背筋がゾクッとする。
アルドヘルムは、レネとリズを賊に売り渡し、ジェスとディルクは魔法陣の実験に使い、最終的には殺すつもりだった。もし四人が気が付いたならば、四人共殺す手はずになっていた!
そして失敗して戻って来たランベールにイルとミルと一緒にジェスも殺す様に命じた!
「じゃ、あの探索家の話も嘘!?」
「あぁ。そうだ。あの子娘達にジェスと一緒にマジックアイテムの回収を頼んだのだ。二人は君と一緒だと大喜びだった。誤算は二つ。君が結界から出てしまった事だ。聞いた話では、ディルクが結界が得意だと聞いていた。もう一つは、ランベールが使えない奴だったって事だな」
そう言って、大きくアルドヘルムは手を振った!
ジェスは術を避けるも思いっきり吹き飛ばされた!
「う……」
体を起こしジェスは、アルドヘルムを睨み付ける。
イルとミルが、ジェスに憧れていたのは本当だった。それを作戦に利用した!
「僕に邪気が見えるから邪魔になりそうで、先に殺そうとしたのか……」
「いや君が余計な事をしたからだ。彼に言っただろう? 水晶の事を!」
「水晶?」
何の事だとジェスは驚く。
「しらぱくれるな! 君が去った後、ゼノが来て水晶を取り上げられた!」
その事か! と驚いた。
指示を受けた後、偶然にゼノに会い、見かけた水晶の話をした。彼とはゼノの事だった!
「あれは、別に告げ口……」
「うるさい!」
「うわぁ!!」
直撃はしなかったが、術が腕をかすめ、ジェスは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた!
水晶はきっと、イッロから盗んだ物だろう。それがバレ、ゼノに没収された!
だとしたら、すぐにイルとミルと一緒に向かわされたのは、ジェスを殺す為でもあったが、最初からランベールも始末するつもりだったのだろう。
そしてアーバテも始末して、彼らのせいにするつもりだった!
知る者がいなければ、しらぱくれる事も出来る。そういう立場にいるのだから。
「あなたは強くて素晴らしい方だと思っていました!」
肩で息をしながら上半身を起こしたジェスは、両手を前についてそう言った。
「ふん、そうか。さて、そろそろ十分だな。気は済んだか?」
「五星封印!」
アルドヘルムの語りと被るようにジェスが叫んだ!
すると、ジェスが手を突いたところから線が伸び五星を描く! それはアルドヘルムを中心としていた!
「ほう。ただ転がっていた訳じゃなかったわけだ」
アルドヘルムは、感心したように言うが、少しも焦った様子はない。
ジェスは、最初からアルドヘルムを封印するつもりだった! 気づかれない様に魔法陣を描く準備をしつつ動いていたのだ!
この魔法陣は、封印と一緒に身動きも封じる。ただ魔法陣が大きいので魔力の消費も大きい!
アルドヘルムに気づかれない様に行うのには、かなり離れないとダメだった。それに術を交わす為にも距離は必要だ。
「で? これからどうする気だ?」
助けが来ない以上、無駄な行為だとアルドヘルムは言っているのだ。
「勝算が全くなかったら僕だってこんな賭けしませんよ!」
「何!?」
「ジェス!」
――来た!
ジェスは、声のする空を見上げた。
「っち。ゼノか!」
やっとアルドヘルムも理解した。
最初からジェスは、ゼノが来ることを予測していたのだ。
「大丈夫ですか?」
ゼノは、ジェスのすぐそばに降り立つ。ジェスは、大丈夫だと頷いた。
「彼を――アルドヘルム総隊長を拘束して下さい!」
ゼノが一緒に来た、特殊警ら隊に叫んだ。
「何を言っている! 捉えるならそこにいるジェスだ! 騙されるな!」
「え!?」
アルドヘルムが叫び、ジェスは驚く!
特殊警ら隊もピタッと動きを止めた。どうしたらいいのか、ゼノを見た。
「何をしてます。私が指示したのは、アルドヘルム総隊長の束縛ですよ!」
ビシッとゼノが言うと、「はっ」と返事を返しアルドヘルムを束縛に向かう。
ジェスが発動した魔法陣は、中心の一人の人物にしか効果がないので、特殊警ら隊の者達は、平然とアルドヘルムに近づき、彼を拘束した。
「後悔するぞ。二人共!」
「連れて行きなさい!」
アルドヘルムは、捨て台詞を吐いて、連れて行かれた!
それを見届けジェスは安堵すると、気が遠くなる。
「ジェス!」
「きっと来ると思ってました……」
今回は、リズは関係ない。だがムチを使ったので来てくれる方にジェスは掛けたのだ!
だが本当に助かるとは、ジェスは思っていなかった――。
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