第30話~本当の黒幕
ジェスは、これで帰れるとイルとミルの手を取ろうとした時だった。人の気配がして振り返ると、そこにランベールの姿があった!
「どうしてここに……」
ジェスはそう言いながら、そっとポーチを開け、緊急連絡用のマジックアイテムを握る。ギュッと握ればいいことになっている。
「まさか君が出てこれるとはな!」
ランベールが言い終わるか言い終わらないかぐらいにジェスは、イルとミルを両脇に抱きかかえ飛び立った!
ジェスは、ランベールには勝てない事はわかっていた。
助けが来るとはいえ、このままボーっとしていたら殺される!
そう思い、全速力で逃げた!
狙いは双子ではなくジェスだった! 逆恨みもいいところだ!
偶然見かけ、後を追って来たのだろう。そしてマジックアイテムか何かを使って水を出し、洞窟に閉じ込めた!
ランベールなら洞窟の周りに結界を張るは、お手のものだろう。
ジェスは、気休めに自分の周りに結界を張った。その結界は、一度目の攻撃で破壊された!
流石雇われるだけある魔術師だ!
そして飛ぶスピードも速く、逃げきれそうもない!
ジェスは仕方なく、地上に降りる事にする。
攻撃されて彼女達を落としたり、気を失えばアウトだ!
降り立った場所は、首都イテルトを見渡せる丘だ。後少しだったが、ランベールがジェスを殺すのが目的なら彼女達だけでも逃がす事が出来る!
ジェスは、ポーチからムチを取り出す。
「二人は、応援を呼んできて!」
逃げろとは言わない。そう言えば、嫌だと言うかもしれない。だからあえて、助けを呼んできてとお願いする。
二人は、ジェスの言葉に、素直に頷いた。
「バカの一つ覚えで、またムチか?」
ランベールも丘に降り立ち、ジェスがムチを手にしているのを見て言った。
「二人共早く行って!」
イルとミルは、頷くと走り出す。それをチラッとランベールは見るも鼻にもかける様子もない。
やはり自分が対象だとジェスは確信する。
「何故、そこまで僕を狙う? 邪魔された復讐?」
「いや。芽は摘み取っておかなくては、という事だ」
「僕の……?」
ランベールは返事をする代わりに、ニヤッとした。
ジェスはどうして自分なのかわからなかった!
昨日の事から言えば、ジェスではなくディルクだろう。ランベールの攻撃を凌いだのは彼だ! なのに何故? それに、それなら昨日出来たと疑問に思う。
ゼノ達が来たのに気付きあれ以上出来なかった。そういう事だろうか。
「残念だったな。頑張って中級になったのに」
ジェスはジッとランベールの出方を伺う。
普通に戦っても勝ち目はない。というか、助けが来るまで持ちこたえられない!
下手したら一撃で殺されるかもしれない。
ランベールは、普通に攻撃してきた!
勿論ジェスは交わす。そして次の為に身構えるが、直ぐには打ってこない。
そして少し間を置いてまた攻撃をして来た!
――やっぱり連続攻撃出来ないんだ!
ジェスはそう確信した。
人には、得意不得意がある。稀に攻撃するのに時間がかかる者がいるが、ランベールがそうだった!
――チャンスだ!
ジェスは、ムチを繰り出す!
それは身構えるランベールの足に絡みつく! 驚くランベールの足をそのままジェスは引っ張った! 彼は見事にひっくり返る。
そしてそのままジェスは、宙にうく。勿論まだムチはランベールの足に絡みついたままだ! ランベールは逆さまになる!
「きさま!」
叫ぶランベールにジェスは、持っていた水を振りかけ、すかさずムチを通し電撃攻撃を仕掛けた!
「ぐわぁ!!」
ジェスは、ランベールが気を失うまで、手を緩める気はなかった!
彼はのたうちまわり、しばらくすると大人しくなった!
「気を失った? ……死んでないよね」
ジッと宙からジェスは、ランベールの様子を伺い、攻撃がこないのを確認して、彼の傍らに下りた。
ジェスは、ランベールの口元に手を持って行く。彼の息が手に掛かった。生きていると安堵する。
だが、拘束するものをジェスは持ち合わせていない。
ランベールを置いて逃げるか、それとも助けが来るのを待つか。ただ、その前にランベールが目を覚ますと厄介だ。次は同じ手は使えない!
「ジェス!」
ハッとしてジェスは頭上を見上げた。
「アルドヘルム総隊長!」
ジェスは助かったと安堵する。今回はアルドヘルムの個人的な事での行動で、大事な知人の子供たちの事もあり、ジェスのSOSで駆け付けたのだろう。
アルドヘルムは、ランベールを挟みジェスとは反対側に降り立った。
「彼は死んでいるのか?」
アルドヘルムは、そう言いつつランベールに触れた。
「死んでいるぞ」
「いえ……え!?」
アルドヘルムの言葉にジェスは驚く。ついさっきまでは、ランベールには確かに息があった。急変したという事になる!
「そんな……」
「大丈夫だ。君はイルとミルを助ける為にやった事だ。つまり正当防衛だ」
よろめいて一歩下がったジェスにアルドヘルムは、そう語るも今回は、任務中の出来事ではない。
妖鬼の事があってまだそんなに日も開けてないというのに、こんな事態を起こしたのならアルドヘルムの口添えがあったとしても何か罰則はあるだろう。
レネの様に降格になる可能性は十分あった。
「そうだ。イルとミル……」
アルドヘルムの言葉に少女達の事を思い出した。
そして妙だとジェスは、チラッとアルドヘルムを見た。
彼女達の為にと言いながら彼女達を案じて何も言ってこない。それどころか、ジェス自身が彼女達は無事だろうかと考えた。
この場にいない彼女達の事を何故聞かないのだろう。
それに私事だとは言え、一人で来るのはあり得ない。彼は総隊長なのだから……。
「あの、お一人で来たのですか?」
「あぁ。私一人だ」
本当に一人でやってきていた。
緊急連絡用のマジックアイテムを使ったのだ。任務ではないとはいえ、人はよこすだろう。総隊長だけが行動するのはあり得ない。
「あ、あの、イルとミルは……見かけましたか?」
彼女達は応援を呼びに行ったのだ。
首都イテルトから来たのならすれ違ったはずだ!
「はぁ……。君は頭は切れるのに、素直過ぎるな」
「え?」
アルドヘルムの言葉に、ジェスは一歩下がる。
「頭が悪いと指示以外は的確に動けないで、君にやられてしまう始末」
胸の前で腕を組み、そう言ってジッとアルドヘルムはジェスを見つめた。
ジェスは、アルドヘルムの言う通り、素直に聞き過ぎたと思った。気づかないフリしてこの場をやり過ごせば、殺されずに済んだかもしれない。
ランベールは、生きていた。殺したのは目の前にいるアルドヘルムだろう。勿論口封じの為に殺された。
ジェスは、また一歩下がった。
どうしてこんな事をしたのかわからないが、ジェスが邪魔になった。
「何故……僕を? 僕が何をしたと? 接点なんてなかったですよね?」
「そうだな。最初は、君を殺そうとした訳じゃないからな。だが君が邪魔になった! 邪気が見える君がな!」
「え……」
本当にこれで確定した。
ランベールから邪気で描かれた魔法陣が見えた話を聞いたのだろう。二人は繋がっていた!
本当の黒幕は、アルドヘルムだった!
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