第29話~狙われた双子

 潮風が心地よい……いや、結構寒い。

 洞窟の入り口を探す為、ジェスはイルとミルと手を繋ぎ海の上を飛んでいた。


 「ジェス、この後デートしませんか?」


 「え!?」


 「あ! イル抜け駆け!」


 この少女達は、ませていた。

 どうしたものかとジェスは困った。

 かわいい双子だが、ジェスから見ればまだ子供だ。

 子供の相手は、ディルクで十分だと内心思う。


 「あ、あったよ!」


 ちょうど洞窟の入り口を見つけ、ジェスはこれ幸いと叫ぶ。


 「あった!!」


 「すごい! ワクワクするね! ミル!」


 なんとか話題を変えられたとジェスは安堵し洞窟に降り立つ。

 彼女達と手を離し、ジェスは左手に光を灯す。

 洞窟の中は、ほぼ真っすぐと道が続いていた。左側にも道はあるようだ。


 「ねえ、二人は手に明かりを灯す術は使える?」


 ジェスの問いに二人はうんと頷き、それぞれ左手に明かりを灯した。

 それを見たジェスもよしと頷いた。


 「どこら辺にマジックアイテムを落としたって聞いたの?」


 「穴の下だと思うって言っていたよ。真っ直ぐ行った所に穴があったって」


 イルがそうジェスの問いに答えた。


 「じゃ、行ってみよう」


 ジェスが言うと、二人は頷く。

 三人は横に並んで歩く。洞窟は思ったより幅が広かった。天井もジェスが手を伸ばしても届かない。


 歩いて十分程した頃、洞窟は行き止まりになった。


 「あれ~?」


 イルはそう言って辺りを見渡す。ミルも同じくマジックアイテムを探す。

 ジェスは、浮いて天井を見ていた。


 ――おかしい。埋めた跡がない。


 天井には、穴があったとは思えなかった。

 ジェスは、地面に下りた。

 ピチャ。


 「うん?」


 水を踏んだ時の様な音に、ジェスは下を見た。微かに地面は濡れていた。

 洞窟は緩やかに入り口から下っている。その地面を伝って水が流れて来ていた!


 「え? 何これ!」


 「あ、水だね」


 「これ、海の水かな?」


 ジェスが叫ぶと、二人も気づきイルは立ったまま水を見て、ミルはしゃがんで水に触れた。


 「しょっぱくないよ」


 「何やってるの! ダメだよ! 毒が含まれていたらどうするの!」


 ミルが海水かどうか手についた水をなめた為、驚いてジェスが言うとミルは半べそだ!


 「ううう。だって……」


 「あ、ごめん。でも危ないからもうしないでね」


 ミルが泣きそうになり、慌てて優しく声を掛ける。


 「うん」


 何とか泣かないでくれたと、ジェスは胸を撫で下ろす。

 それよりもとジェスは、水が流れて来た方を見た。

 緩やかに下っている為、海に面した出入り口はここからでは見えない。だが、海面からは高い位置だった。

 十分程で海面が上昇するとは考えづらい。

 だとするならば、別れ道だった方から流れて来ていると考えた方がいいだろう。


 「一旦、ここからでよう!」


 「でも見つかってないよう?」


 ジェスの提案にイルがそう言った。


 「ここが水でいっぱいになったら僕達は溺死するよ。安全が確認出来たらまた探そう」


 ジェスの言葉に二人は頷く。

 そして三人は、出口に向かって走り出す。

 足元の水はいつの間にか踝程までになっていた。

 ピシャピシャと音が木霊する。


 「おかしい」


 ジェスは走りながら呟いた。

 海に面した出入り口の穴から入る光が、見えてもいいはずだが一向に明るくならない。

 そして、水笠の増え方が尋常ではない事にジェスは気づく。


 「二人共明かり宜しく」


 ジェスはそう言うと、二人を脇に抱え浮いた。

 そして、飛んで出口を目指す。


 「わぁ!」


 「きゃ!」


 「ごめん。驚かせて。でもこれ、早く出ないと危ない……って!」


 見えるはずの出口がなかった!

 塞がっていた!

 水は思った通り、もう一つの道から流れ込んで来ていた!


 「嘘だろう?」


 「ジェス……」


 二人は怖がり、ジェスにしがみつく。

 イルとミルもようやく、状況がわかった。

 このままだと洞窟内は水でいっぱいになり、ジェスがさっき言った通り溺死すると。


 ――僕は、嵌められたのか! 一体誰に!


 思い当たらなかった。

 双子の父親ではない事は確かだ。自分の子供達をも殺す事になる。

 探索家だとしてもジェスとは接点がない。

 アルドヘルムの策略だとしても、彼にこんな目に遭わされる恨みがジェスにはない。それに知人の子供達を巻き込むとも思えない。


 ――この子達が狙われている?!


 そうなれば、探索家が怪しい。

 だが今は、そんな事を考えている時ではない。

 ここから脱出する事を考えなければならない!


 「二人共、しっかり僕に捕まって!」


 言われずとも二人は、しっかりとジェスに抱き着いていた!

 ジェスは、塞がった出入り口に術を放った!

 そこを壊し脱出するつもりだったが、術は弾かれた!


 「なんで!」


 驚いてジェスは、塞いでいる岩に触れてみた。驚く事に結界が張られている!

 これではっきりとした。誰が狙いかは定かではないが、殺そうとしていると!


 「どうしたら!」


 もう水は、立っていれば、少女達の首程まで水位があった!

 天井にもジェスは触れ、愕然とする。そこも結界が張られている。

 だが壁には、張られていなかった!


 ジェスは、横の壁を破壊して、その天井から出ようと試みた!

 だがそこもまた結界が張られていた!

 どうやらここら辺一体に張ったようだった!


 「やばい……」


 「うううう」


 「ミル! 泣いちゃダメ!」


 泣き出したミルに言うイルだが、彼女も泣き出しそうな顔だ。


 「もうちょっと頑張って!」


 ジェスは二人にそう声を掛ける。そして、塞がれた出入り口の前に浮く。

 深呼吸すると、結界に自分の結界を割り込ませようとする。

 この前、いとも簡単にディルクがやっていた行為だ。ジェスにしたら難しい。だがこれしか思い付かなかった!

 ジェスには張られた結界を破壊する事は不可能だった。


 「で、出来た……」


 自分が出れるくらいの大きさを確保する。


 「悪いけどぴったりくっついてもらっていい?」


 二人は頬を染めジェスにくっついた。

 ジェスは、開いた隙間から何とか這い出る!

 潮風がディルク達を撫でて行く。洞窟から出られた実感がわいた!

 安堵すると、途端に結界は閉じられる。


 ジェスは、崖の上に降り立った。そして三人は、へなへなとそこに座り込む。


 「ジェス凄い!」


 イルが目を輝かせて言った。


 「あ、ありがとう」


 ジェスはへとへとだった。

 多分、命の危険が迫ってないと成功しなかっただろう。前日にディルクが行っていたのをまじかで見たのも成功に繋がった。


 「やっぱり、ディルクは凄いや……」


 ジェスは実感する。

 ディルクの得意分野だが、ジェスにはそういう秀でた所がない。コツコツと積み上げていくタイプだ。


 「ディルク?」


 ミルはジェスの言葉に首を傾げる。


 「あ、いや、何でもない。そうだ、二人共。怪我はない?」


 二人はないと頷く。


 「じゃ、戻ろう」


 ジェスはそう言って立ち上がった。

 ここは潮風があり寒い。

 それにどっとジェスは、疲れていた。早く帰って休みたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る