第32話~悪夢の査問会議
ジェスは薄っすらと目を開けた。まだ何となく、体がだるい。それもそのはず、魔力をかなり消耗したのだ。
五星封印の魔法陣を半径三メートル程で描けば、魔力もあっという間に消費されるというもの。だが、あれしか方法がなかった。自分では倒せる相手でも逃げる事も出来ない相手。
アルドヘルムの油断を誘い、動きを封じるしかなかった。後は運しだい。
「目を覚ましましたか? 気分はいかがです?」
横から声が聞こえ振り向くと、イスに座ってジェスを伺うゼノがいた。
二人がいる部屋は、窓がなく、部屋の中心に光を淡く放つ水晶体が浮く何もない部屋だった。
「ここは……」
「待機室です……」
その言葉に、ジェスはどこだと思った。
病院ではないだろう。
「申し訳ありません。アルドヘルムがあなたに嵌められたと訴えた為、査問会議を開く事になりました。反論はしたのですが、力及ばず……」
そうゼノは、静かに語った。
どうやらアルドヘルムが言った捨て台詞が本当になったようだ。
査問会議とは、訴えている事が本当か検証する会議で、嘘だと判断されれば、そこで処罰が決まる。決まってしまえば、余程の事がなければ、覆る事はない。
殺される事はないが、下手すれば魔術師で居られなくなるかもしれない。
ジェスは体を起こす。傷は癒され治っていた。
「僕が、その査問に掛けられるのですか? アルドヘルム総隊長は?」
「今回は、アルドヘルム総隊長と我々です」
二方のどちらの主張が正しいか聞くようだ。
――それってかなり不利だ!
立場的にアルドヘルムの方が有利だった。信頼も向こうの方があるだろう。
「すみません。僕のせいでゼノさんまで……」
「あなたのせいではありませんよ。私の詰めが甘かったのです。彼を完全に追い詰める事が出来なかった!」
ゼノは、アルドヘルムがマジックアイテムの横流しに関与していると踏んでいる様子だ。
水晶を持っていた事で追い詰めたつもりだったが、そうならなかった。
「会議の用意が出来ました」
突然一方の壁の一部がフッと消えて、男性が現れた。
紫の衣装を着た男性だ。
彼は鋭い紫の瞳で二人を見ると去って言った。
――え? ゼノさんのお兄さん?
雰囲気は全然違うが髪が黒く、容姿が似ていた。
「えっと……今の人は?」
「彼ですか? 彼はロベルさんと言ってエミリアーノ様の側近です」
「え!?」
ジェスは、エミリアーノと言う名に驚いた。
このイーバール国は、力ある者が支配する独裁主義国で、今はドニーノ・フェオリッソ総統が治めている。その息子が、エミリアーノだ。
その側近がいるという事は、査問会議には、エミリアーノも出席するという事を示す。
「行きましょうか」
ゼノの言葉にジェスは頷き、ベットから降りた。
あまりにも凄い展開にジェスは頭がついてこなかった。
☆―☆ ☆―☆ ☆―☆
査問会議の部屋は、窓のない部屋で思ったより広くなかった。
部屋に入ると一番奥に通される。
驚く事に、アルドヘルムは束縛も何もされていなかった!
ジェスとゼノ、アルドヘルムに一人ずつ特殊警ら隊が付き、目の前には議長のエミリアーノが立っていた!
エミリアーノは、銀に近い灰色の髪で衣装も銀。瞳は黄金で一人華やかだ。
そして彼の横には、先ほど呼びに来た側近のロベルが立ち、その横に白いローブを着た深緑の髪と瞳の風格のある四十代ぐらいの男性が立っていた。
彼らは、ジェスとは対面で立っている。
イスなどはなく、全員起立したまま行うようだ。
エミリアーノとジェス達の間には、証言席があった。
あの場に立ち、証言する事が出来る。
「ではこれから査問会議を始める」
全員揃い、エミリアーノのがそう宣言をして、査問会議が始まった。
「今回は、三名の審議をする。一人は、中級魔術師総隊長のアルドヘルム。彼の容疑は、マジックアイテムの不正取り扱いお呼び、中級魔術師のジェスの殺害未遂。そして中級魔術師のジェスの容疑は、アルドヘルムにそれらの疑いが掛かるように仕向けた事。そして、その手伝いをマジックアイテム研究員兼特殊警ら隊のゼノが手伝った疑いだ」
ジェスは、ゼノが本当に研究員だった事に驚いた。特殊警ら隊の身分を隠す為の嘘だと思っていた。
「では、審議を始める。まず、ゼノ前へ」
「はい」
エミリアーノに呼ばれたゼノは、返事を返し証言席に立った。
「話せ」
「はい」
頷き、ゼノは語り始める。
「私は、総統から直接、不正取り扱いがある様なので調べる様に命を受けました。確かにどこからか、マジックアイテムが裏取引されているようで調べていた所、偶然ジェスからアルドヘルム総隊長が水晶を持っていたと聞き、その現場を押さえました。ですが彼は、いつの間にか置かれていたと主張しています」
総統とは、この国のトップの事をそう呼ぶ。つまりエミリアーノの父、ドニーノの事だ。
ゼノは直々に依頼を受けたと述べた。
ジェスはその事に驚いた。ゼノは一体何者なのかと。一目置かれているのはわかる。
「水晶とはそれだな? ウリエン」
「はい。さようです」
ロベルの横に立っていた男がスッと木箱を開けると、そこには水晶が入っていた。
ジェスがあの時見た水晶だ。
「では、ジェス。君はこの水晶に見覚えはあるか?」
「はい。アルドヘルム総隊長が持っていた物です」
エミリアーノの質問にジェスは素直に答える。
「では、アルドヘルムはどうだ?」
「はい。気づいたら置いてあった物です。今考えると彼が置いて行ったのではないかと。その後すぐに、ゼノが来て驚きました。私はその時から嵌められていたのです!」
そう驚く内容の供述をしてアルドヘルムは、警ら隊を挟んだ向こう側にいるジェスを見て言った。
ジェスは、まさか自分のせいにされるとは思いもよらなかった。これは立証のしようがない。ただゼノに会って、水晶の事を述べた事は事実だ。
アルドヘルムに罪を着せようとしたと捉える事も出来る。
「わかった。ゼノは戻れ」
ゼノは頷くと、ジェスの隣に戻った。
これ以上は詮索はされなかった。
「では次は、アルドヘルム前へ」
「はい」
アルドヘルムは、一礼して証言席に立った。
「あなたが、ジェスを殺そうとしたと訴えがあった。相違ないか?」
「まさか、私が彼を殺す理由はありません」
「では、わざわざあの丘に行った理由はなんだ?」
エミリアーノが聞くと、アルドヘルムはジェスに振り返った。
「彼に呼び出されたからです」
予想外の答えにジェスは、あんぐりとする。
あり得ない。緊急用のマジックアイテムで呼び出したのだ。これは記録に残っている。それなのに凄い言い訳だとジェスは思ったが、アルドヘルムは、平然としている。
「彼は緊急用のマジックアイテムを使い、ランベールに襲われたように偽装したのです」
そう語り始めたアルドヘルムの物語は、よくも思いついた物だとジェスが感心する程の内容だった――。
緊急用のマジックアイテムが使われ、ジェスからSOSが送られてきた。
驚いていた所、アバーテの娘、イルとミルがアルドヘルムの元に逃げ込んで来る。彼女達が、ジェスに殺されかけたと言っていた為、SOSは誤報だと伝え、丘に向かった。
そこにはランベールがおり、彼はまだその時は息があった。
ランベールは、イッロ宅で雇われている魔術師で、前日にジェス達を襲った者で、ジェスからは、ランベールがマジックアイテムを賊に横流ししていたと報告を受けていた。
だが驚いた事にランベールは、首謀者はジェスで口封じで殺されると言っている最中に、目の前でジェスに殺されたと述べる。
ジェスを問い詰めていた所、策にはまり動きを封じられた。そこへ運よくゼノ達、特殊警ら隊が来たのだが、ジェスの事を信じ切ったゼノによって捕らえられたと堂々と述べたのだった!
あまりの事にゼノも驚いたようで、何も言わなかった。
「イルとミルに聞いて下さると確認を取れると思います」
そう驚く事もアルドヘルムは、付け加えた!
多分、アバーテを脅したのだろう。それで二人に嘘の証言をさせた。
だが二人がそう証言すると、アルドヘルムが言っている事が正しい事になる!
「ジェスは、仲間まで騙しております。彼らを上手く使ったのです。結界が得意な者と捕らえられたフリをして、そこから脱出して、危険が迫った仲間を救出するフリをして、自分以外をランベールに殺させようとした。報告書には、ジェス一人だけ攻撃されなかったと記されています」
確かにアルベルトとの言う通り、ディルクのお蔭で結界から脱出でき、洞窟内では、皆から一人離れていた為に、岩の下敷きにはならなかった!
それをまさか、逆手に取ってこんな風に言われるとは、ジェスは思わなかった!
全て本当なので、言い訳のしようがない。
「ジェス、何か反論はあるか?」
「確かに、アルドヘルム総隊長の言う通り、一人岩の下敷きになりませんでしたが、それは偶然です。ムチで攻撃した為に一人まえに出ていたんです! それに彼女達を殺そうなどとしていません!」
エミリアーノの問いに、ジェスは事実を言う他なかった。
「なるほど。彼女達は君に殺されかけたと言っているが、あくまでも違うと言うのだな?」
エミリアーノのに問われ、そうですとジェスは頷いた。
ジェスの心証は悪いだろう。
このままだと、全ての罪を擦り付けられるが、全く何も策が浮かばなかった!
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