第26話~ランベールの実験

 ジェスは、砂埃で何も見えない洞窟で、茫然と立ち尽くしていた。


 「うそ……だろ……」


 ディルク達がいた方を向き、愕然としてジェスは呟いた。

 グイッと突然、ムチが強く引っ張られ、ジェスはよろけムチを離してしまう。


 ばさっ!


 ムチが地面に投げられた音がする。

 ついディルク達に気が取られ、ムチが緩み奪われた!


 ――どうしたら……。


 ジェスが困惑していると、目の前に人の気配たした。

 ガシッと胸元を掴まれる!


 「う……」


 勿論ジェスの胸元を掴んだのは、ランベールだ。


 「君、一人になっちゃね。一人生き残った感想はどうだ?」


 ジェスはゾクッとした。

 ワザと一人だけ、残したと言ったのだ。


 「な、何故、こんな事を……。邪気を使って何をしたいんだ!」


 「君はバカだな。本気にしたのか?」


 「え?」


 ジェスは驚き、ランベールの顔を凝視する。


 「そんな事が出来る訳ないだろう? 何をしたかったか、体験してみればいい!」


 ニヤッとするとランベールは、ジェスを突き飛ばした!

 ドサッとジェスは、地面に倒れ込む。


 ハッと気が付けば、風の刃が無数に飛んできた! ジェスは咄嗟に結界を張ろうとしたが、それは何かにかき消された!

 ジェスは、切り刻まれるのを覚悟して、固く目を閉じた!

 だが、一向に痛みがこない。不思議に思い目を開けると、目の前にはニヤッとしてランベールが立っていた。


 「え? な、何……。どういう事?」


 何が起きたかわからないジェスは呟く。

 結界は張れなかった。こんなに近くて術も届かなかったって事はないだろう。

 ジェスは自分の周りを見渡す。


 よく見れば、ジェスが座り込んでいる所は、あの魔法陣の上だった!

 そしてその周りには、無数の刻まれた痕があった。


 ――攻撃がそれた?


 「その結界は、術を全て無効にする。というものだ。それを確かめたくてね。君の結界も私の攻撃も全て無効に出来たようだ。素晴らしい」


 つまり、この魔法陣の上では、術は全てかき消されるという事だ。術が効かない空間。これは、魔術師の国としては、驚異の魔法陣だ!

 しかも邪気による魔法陣だと、魔法陣自体に気づけない魔術師の方が多いだろう。それが今、確かめられたのだ!


 「どうしてこんなものを!」


 ジェスは、立ち上がりながら聞いた。


 邪気なら魔術師でなくても扱えると言われている。本当にそうだとしたらこの魔法陣は、知られてはいけない存在だ。


 「それは、お前が知らなくていい事だ。それより聞きたい……ぐわぁ」


 ランベールが話している途中で、前に吹っ飛んだ!

 ジェスが驚いて見れば、崩れた岩の所に三人が立っていて、ディルクが術を繰り出しランベールを突き飛ばしたようだった。


 「生きてた!」


 「勝手に殺すなよ。結界を張って凌いだ。こいつが何をしたいのか、ちょっと見学していただけだ」


 「そうそう。ジェスには悪かったけどね」


 ジェスは、三人が生きていたと安堵する。

 どうやら咄嗟にちゃんとディルクが結界を張り、岩からの衝撃を防いだ。そして、きっとレネの提案で様子を伺っていたに違いない。


 「きさまら!」


 体を起こしランベールは、ディルク達を睨む。


 「ディルク、結界をお願いしていい? ここを突破する! レネ、リズをお願い!」


 「OK! レネ、リズを頼むからな!」


 兎に角洞窟から出なくてはと、ジェスが立てた作戦にディルクが乗るもレネからの返答がない。


 「え! レネ!」


 リズの声にジェスとディルクが振り向けば、ぐったりとしてレネがリズに体を預ける様にして倒れ込んでいた!


 「どうやら毒が回ったようだな」


 「毒だって!?」


 ジェスが驚いて叫ぶ。

 レネが矢で傷を負った事を思い出す。


 「矢に毒が塗られていたのか!」


 「っち」


 ディルクがジェスが言った言葉に舌打ちをした。

 ジェスとディルクは、レネに駆け寄る。


 「行くよ!」


 ジェスの掛け声に、ディルクは頷いた。

 ディルクはリズと手を繋ぎ、ジェスはぐったりしているレネを背負う。そして洞窟の出口を目指し飛んで移動する!

 走るより飛んで移動の方が断然早い。洞窟内なので少し体を浮かせ向かうが、四人を阻む様にランベールは立ちはだかった!


 「うわぁ」


 ディルクが驚いて叫んだ!

 突然地面が勃起し、壁が出来たのだ!


 「きゃ」


 「リズ大丈夫か!?」


 驚いてディルクがリズに問うと、リズは大丈夫と頷く。

 気づけば、洞窟の出入り口に蓋をされた状態になっていて、洞窟内に閉じ込められた!


 「あいつ何がしたいんだ? 時間稼ぎか何かか?」


 ディルクは、突破できる物で塞いだのでそう言ったのだ。壊せるのだから洞窟からは出られる。

 ジェスは、まだ洞窟内に何か仕掛けがあるのかと、慎重に辺りを見渡すもそれといってなかった。


 「壊した途端に、攻撃されたり崩れたりがあるかもしれないから、僕が壊すよ。だからディルク、このまま結界お願い」


 「了解! 壊れたらすぐに飛び出すからな!」


 ディルクの返事にジェスとリズは頷いた。


 「行くよ!」


 ジェスはそう言って、目の前の岩の壁に攻撃を仕掛けた!

 そして破壊された壁から外へ四人は飛び出た!

 何か起きるかと身構えたが、ランベールは、姿を消していた。


 「ジェス!」


 突然声を掛けられ、呼ばれた声がした空を見上げた。そこには驚く事に、ゼノが居たのだった!

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