古の魔女の願い~エピローグ

 悪夢の様な日。あれから一週間程経った村長の家にて――


 「ソイニさん、これで終わりだ。手伝って頂いて助かった。ありがとう」


 「いえいえ。では、一休みして……」


 トントントンと、ドアがノックされる。

 マティアスクとソイニは、部屋の片づけ? をして、一息ついた所だった。


 「どなたでしょう?」


 ソイニがドアを開けると、ゼノが立っていた。彼は軽く頭を下げる。


 「こんにちは」


 「これは、ゼノさん。先日はお世話になりました。中へどうぞ。散らかっておりますが……」


 「失礼します」


 ソイニに通され、家の中にゼノは入った。

 部屋の中は、ソイニが言ったように散らかって、いや、まるで引っ越しでもするかの様に、荷物がまとまっていた。


 「二人共、元気そうでなりよりです」


 ゼノがニッコリそう言うと、二人は深々と頭を下げた!


 「ゼノさん、先日は大変お世話になりました。あなたのお蔭で私達は救われた。孫も魔術師でいられる。ありがとうございます」


 「本当に。私など村長に格上げです。ありがとうございます」


 「よして下さい。頭を上げて下さい。私は何もしておりませんよ。事実を報告しただけです」


 ゼノの言葉に二人は顔を上げ、彼の顔をジッと見つめた。


 「その報告とは一体どのような? 不思議でなりません」


 「事実をそのままです」


 ソイニが不思議だと述べるが、ゼノは事実をと返す。だが信じられないと言う顔つきでゼノを見ていた。

 軽くため息をすると、仕方がないとゼノは話し出す。


 「リズは妖鬼ではなく、魔女でしたと教えて差し上げました。もし幽閉でもしていたら大変だったと、私の意見も少し述べはしましたが……。そして、妖鬼は存在し、レネに隠れていた。だが彼女が、自力で妖鬼を自分の体から排除し、魔女の能力でリズが水晶に封印したと報告致しました。勿論その水晶は、私の手元で保管しております」


 そうゼノは、語った。

 確かに事実以外の事は、伝えていないようだった。だが、この伝え方だと、妖鬼対策隊が魔女を妖鬼と勘違いしたと、受け取れる内容ではないかと二人は思うのであった。


 「あの、魔女の策略のお話は?」


 それも話したのかと、ゼノは問う。


 「魔女の策略? そんなお話を聞かせる訳がないでしょう。あれは、私の空想ですよ? 確証が無い事は、報告できません」


 「………」


 では、自分達に聞かせたあの話は、何だったのだと、二人は顔を見合わせる。


 「私からも一つ質問があるのだが、宜しいかな?」


 「なんでしょう」


 マティアスクが声を掛けると、ゼノは頷いた。


 「いつからリズアルが、魔女だと気づかれておられたのでしょうか?」


 「いつからも何も、あなた方からお話を聞いて、わかった事ですが?」


  ゼノは、平然とそうマティアスクの質問に返した。


 「ですがあなたは、祠に行っている我々を待つ間、リズアルの両親に彼女の事を訪ねております。祠の事など一切聞かずに……」


 今度はソイニが質問し問いただす。


 「お二人は、流石に鋭いですね。わかりました。お話致しましょう。リズに、妖鬼が取り憑いていない事は、伝記を知っている者なら明らかにわかります。あれは、魔女が用意した物でしたが、あの時は私も伝記を信じておりました。彼女に初めてお会いした時には、魔女だとは気づいておりません。ただ、妖鬼は取り憑いていない事だけは、わかりました」


 「ではなぜ、待っている間、リズアルの話を?」


 すでに気づいていて、聞きだしていたと思っていたソイニは、そう聞いた。


 「その夜、色々と考えてみたのです。それで、あれは妖鬼の仕業に違いない。ではなぜ、妖鬼は彼女を選んだのか。そして、リズ自身も気づいてはいないが、魔女なのではないかと、結論を出したのです。そこで待っている間、彼女の話を聞いておりました」


 「そうでしたか。私は、魔女の鈴でわかりましたが、あれがなければ、見当もつかなかった」


 ゼノの言葉に、マティアスクはそう言って、感心したと頷く。


 「あなた達が祠から戻って来た時に、レネの魔力が空になっている事で、確信にかわりました」


 「え? それって……」


 ソイニが驚きの声を上げると、ゼノは頷く。


 「あなた達から話を聞く前に、レネの中に妖鬼がいたであろう事は推測でき、私の仮説が正しかったと確信に至ったのです。それであの時、レネには寝て頂きました」


 「なんと……」


 マティアスクは、それ以上声が出て来ない。


 「勘違いをなさらないで下さいね。彼女を眠らさせたのは、つらい話を聞かせない為です。あなた達だって、彼女が寝ている方が話しやすかったでしょう?」


 「そういう配慮でしたか。何から何まで……ありがとうございます」


 マティアスクは、頭を下げた。

 ゼノの言う通り、レネが寝ていなければ、真相を話せたかどうか自信がなかった。辛そうな顔をする孫の顔を見て、真実は話せないだろう。


 「そうでした! こんな話をしに来たのでは、ありませんでした! お願いに来たのでした」


 ゼノは突然、思い出したかのように、声を上げた。

 二人は何だろうと、ゼノの次の言葉を待った。


 「鈴です! 不要になったら貸して頂けるように、お願いしてあったと思うのですが?」


 「え? あれは本気だったのですか! どちらにしても、私はまだそういうのは、申し送りを受けておりませんので……」


 ソイニがそう答えると、ゼノはジッとマティアスクを見る。

 貸てほしいと、目で訴えて来た。


 「いや、あれは……村からの持ち出しが禁じられているアイテムなのです。申し訳ありません」


 「そうですか。それは残念です」


 マティアスクの言葉にゼノは、台詞通り残念そうな顔をするもチラッと二人を見た。


 「では私がこちらに通いましょう! ご迷惑はお掛けしません。いかがですか?」


 ゼノは、諦めが悪かった! どうしても鈴が見たいらしい。


 「え!? あぁ……村長に就任したばかりで、色々忙しく……」


 「そうですよね。後日、日を改めて伺います」


 「………」


 ゼノが嬉しそうに言うので、ソイニも頷くしかない。

 ソイニ達は、ゼノが苦手だった。ちょっとした行動や言動で、何もかも読み取られるようなそんな感じがするからだ。


 「それとですね。勘違いをなさっているようですので、お伝えしておきますが、マティアスクさんが村長を解任されたのは、もう一つの魔女の伝記を今まで伝えずに、隠していた処罰ですよ」


 それを聞き、二人は顔を見合わせる。

 ゼノに聞くまで、知らなった。


 「もし、そういうたぐいのものがまだあるのでしたら、私がお聞きして伝える事は可能ですので、何なりと相談して下さい。ではまた、落ち着いた時にお伺い致します」


  ゼノはそう言い残し、二人に軽く礼をすると飛び立って行った。


 「厄介な方に、目を付けられたようです……」


 ゼノを見送るソイニは、そう漏らしたのだった――。

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