第20話~終結?!
部屋には、ため息が次々と聞こえて来た。
ゼノが語ったのは、妖鬼は魔女が作り出したのと変わりない。そして今の所、倒す方法はないという事だった。
「あの僕、妖鬼の行動で一つわからない事があるのですが?」
その言葉に皆が、ジェスに注目する。
「妖鬼は何故、リズに嫌疑がかかるようにしたのでしょうか? 自分の手で下せないからと言っても妖鬼が取り憑く条件を満たさない彼女に……。得策な作戦ではないですよね?」
ゼノは、その通りですと頷き答える。
「妖鬼は元は人間です。取り憑いた相手の記憶を覗き見る事は出来なかった。取り憑いていた一年間に得た情報しかなかったのではないでしょうか」
「そうか! 妖鬼対策隊の事を知る事は出来たけど、妖鬼が取り憑く条件がある事を知らなかった。妖鬼は本来、無条件で相手に取り憑く事が出来たから……」
ジェスは納得とばかりに頷いた。
「取り憑いていたレネさんの周りでは、その話題は上がらなかったのでしょう。たぶん私が訪ねて来た時に、初めて知ったのではないでしょうか」
「では、私に眠りの術を掛けたのは、祠に行かせない為ではなく、逆にレネに行かせる為だった……」
マティアスクの言葉に、ゼノは頷く。
「そうなります。作戦に失敗したと悟り、レネさんの体を先に奪う事にしたのでしょう。レネさんを行かせる為に、マティアスクさんは邪魔なので眠らせた。と、いうところではないでしょうか」
「でも、祠に行かないって選択をするかも知れなかったのに?」
「それでもよかったのではないですか? それに、一年間あなた達の事も見ていたわけですから、どう行動するか把握できはずです」
リズの疑問にはソイニが答えた。
「そうだな。ディルクなら行けと言わずともあの状況なら行っただろう。また、私の代わりにレネもついて行くと言い出すだろうと。そしてレネが、自分が妖鬼の封印を解いた事を知れば必ずやレネの体が手に入ると踏んだ……」
「僕達、妖鬼の策にまんまと乗せられたんだ……」
マティアスクの言葉に、ジェスはボソッと呟く。
「いいえ。リズアルさんを受け渡す選択をするよりは、そちらの方が断然よかったはずです。城の者には、彼女が白とも黒とも答えを出す方法などなかったのですから。それに後日、祠に検証に行くか定かですらない。幽閉される可能性が高かったでしょう」
「………」
幽閉……その一言で皆不安な顔つきになった。
「そんな暗い顔をしないでください。リズアルさんが妖鬼ではない事を証明出来ているのですから」
「ですが、城の者があのナイフが刺さった水晶と今の話で納得してくださるのでしょうか? あなたは納得して下さったようですが……。それに、リズアルの嫌疑が拭えてもレネがどうなるか……。どこまで信用して頂けるかがわからない……」
ソイニは皆の意見を代弁するかのようにゼノに言った。
「私が研究者だということをお忘れですか? 心配はいりません。あなた方は嘘を言っていない事はわかっておりますから。そうそう、その水晶こちらに頂けますか?」
ジェスは、ずっと両手で持っていた水晶をゼノに受け渡す。
話を聞いていた内容が凄すぎて、今まで持っている事を忘れていた水晶だったが、手渡すと手がだるく感じ両腕を擦った。
「これが、妖鬼が作った水晶に、魔女が作ったナイフですか! このような貴重なアイテムが手に入るなんて!」
目をキラキラさせ水晶を見るゼノは研究者そのものだった。
「本当に大丈夫なのかよ。アイテムさえ手に入ればって感じに見えるけど……」
「ちょ……うまくまとまったんだから、余計な事いうなよ!」
ジェスが慌てて言うが、もうその言葉がゼノの耳に届いている以上遅い。
「相変わらず、直球ですね。でもまあ、あながち外れではありませんが」
「え!」
ゼノの言葉にジェスは驚きの声を上げる。
「今回私がこの仕事を引き受ける条件として、この件で手に入ったアイテムは私が好きに研究出来るというモノなのです。そういう意味なので、あなた方を
「それはよかった。あなたにこの話を信じて頂けたのなら後はお任せするしかありません。どうか、宜しくお願いします」
深々とマティアスクは、頭を下げる。そして、それに倣い他の者も頭を下げた。
「善処するようお願いしてみましょう。皆さん、今日はお疲れさまでした。お達しは後日、他の者から連絡があると思います。では、皆さん私はこれにて失礼します」
軽く会釈をすると、ゼノはドアに向かう。
玄関までマティアスクとソイニが送ると、ゼノは大切そうに水晶を持ち城に向かって飛んで行った。
「あの……娘は本当に助かったのでしょうか……」
ゼノを見送り部屋に戻って来た二人に、リズの父親は不安げに聞いた。
「少し嫌な言い方になりますが、リズアルも研究対象になるのなら彼女は絶対に大丈夫でしょう。かなり頭の回転が良い方のようなので……。話は変わりますが、私達を待っている間、彼とはどのような話を致しましたか?」
「主にリズアルの話を……。性格とか普段どのように過ごしているのかなど」
ソイニの質問に父親がそう答えると、彼はやはりと頷いた。
「誰が祠に向かったなどとは聞かなかったのですね?」
「え? そういえば、聞かれませんでした。妖鬼や祠の事は一切……」
「ちょっと待てよ! あいつ、今度はリズを研究するとか言って連れに戻ってこないだろうな!」
母親の話にディルクは、焦りを見せる。
「興味を持ったのは間違いないみたいだね。でも、乱暴な事をするような人には見えなかったから、無理やり連れて行く事はしないと思うけど……」
「う……う~ん」
ジェスがそう言ったところでレネが目を覚ました。それで、この話は打ち切りとなる。
「レネ。どうだ。具合は?」
「おじいちゃん……。あれ、私寝ちゃったの? あ、妖鬼の話はどうなったの?」
「心配ない。ゼノさんにちゃんと全部話し、わかって頂いた」
レネは、マティアスクの言葉に不安げな顔をする。
それは、自分が妖鬼に取り憑かれていた事も話した事になるからである。
「心配ないわ。凄く頭のいい人みたいだから、ちゃんと説明してくれるわ」
レネは、リズの言葉にうんと頷く。
「さて、我々は帰ろうか。マティアスクさん、ソイニさん、今日は本当にありがとうございました。ほれ、二人とも帰るぞ」
「では、僕も帰ります。レネ、お大事に」
「うん。ありがとう」
五人は、挨拶を交わすと外に出た。
外はすでに暗闇に包まれ、星空がとても綺麗に見える。
「もう、真っ暗ね。星が綺麗」
「ジェスくん、本当に今日はありがとうございました」
父親がそういうと、リズの両親はジェスに頭を下げた。
「いえ、僕は何もしていませんよ。どちらかというと僕の方がリズに救われたんです」
「え? 私が?」
ジェスは頷く。
「僕は、レネのように妖鬼を自分で追い出す事は出来ないからね。君が妖鬼を封印してくれなければ、僕は取り憑かれて乗っ取られていたよ。ありがとう、リズ」
今度はジェスがリズに頭を下げる。
と同時に突然ディルクが、がばっとリズに抱き着いた。
「ちょっと、ディルク。どうしたのよ」
「よかった……。オレ……」
「もう、やだ泣いてるの?」
「な、泣いてなんかない!」
そういいながらも、顔をリズの胸にうずめている。
強気な態度をしていたが、どれだけ不安だったか。やっとディルクは安堵したのである。
「では、僕は飛んで帰ります。おやすみなさい」
会釈をすると、ジェスはスッと空へ飛び立つ。
――ゼノさんが遣わされなければ、今のあの二人の姿は見れなかったんだよね。
リズに抱き着くディルクを上から眺め、やっとジェスも無事に乗り切れた事に胸をなでおろす。後は自分たちの事を託したゼノを信じるほかなかった。
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