第18話~待っていたゼノ

 魔法陣から出た先は、見覚えのある絶壁が見える場所だった。

 ジェス達が絶壁を見渡した場所だったのである。

 そして、もう日が傾き、夕日が昨日と同じく辺りを真っ赤に染めていた。


 「マティアスクさん、レネは私が運びます」


 「すまないな、ソイニさん。頼む」


 ソイニが頷くと、レネも「ありがとう」と礼を言った。


 「では、行こう」


 マティアスクの号令で皆、彼の家に向け飛び立つ。勿論、リズはディルクと手を繋ぐ。


 「やはり家の前にいるな……」


 マティアスクは、家の前にいる人影を見つけて呟いた。


 「父さん達もう少し引き留めてくればなぁ……」


 「仕方がありません。戻って来るのを家の前で待つと言われて、頑なに断り続ける事など出来ないでしょうから」


 ディルクの言葉に、ソイニは両親を擁護した。

 人影は三人分。一人だけ白っぽく見える。城の遣いの者で間違いない。


 「今日も一人だけ? え? あれってゼノさんじゃ……」


 ジェスの言葉に皆頷いた。


 「今日もゼノさん一人ですか。彼はやはりただ物ではないのでしょう。リズアルを捕らえに来る者が研究者のみなど通常あり得ないのですから……」


 その言葉に今度は皆、顔を強張らせる。

 三人が待つ村長の家の前に、全員降り立った。


 「お待たせして申し訳ない。で、今日もお一人で?」


 「お疲れ様です。怪我人もいるご様子。まずは、建物の中に入りませんか?」


 マティアスクの質問はスルーし、ゼノは中に入るよう促した。

 それに従い、マティアスクはドアを開け中に入ると皆も続く。そして、そのままマティアスクが先ほどまで寝ていたベットにレネを寝かせる。


 「先に彼女を治療するお時間を少し頂けないでしょうか?」


 「治療ですか? 私が診ましょう」


 ソイニの言葉にそう返すと、返事も聞かずレネの首筋辺りに手を当てた。彼女は、ビクッと体は震わす。


 「突然申し訳ありません。様子を調べます。もう少し触れても大丈夫ですか?」


 一度手を離してレネに確認をとると、彼女が頷きゼノは触診を続けた。

 首の次は手首に触れる。


 「手を開いて頂いて宜しいですか?」


 「はい……」


 全員が見守る中、ゼノはしゃがむと襟元から服の中にしまってあった、上級魔術師の証である水晶を引っ張り出だし、彼女の掌の上に乗せた。


 「軽く握って下さい」


 レネは頷き、ゼノが言ったように軽く握る。

 ゼノが短く呪文を唱えると、指の隙間から光が漏れだす。握った水晶が光を発しているのである。


 「なあ、アレ何をしてるんだ?」


 「多分、治療だと思う。と言っても魔力が切れているだけだから補給しているだけだと思うけど……」


 普通の声で質問するディルクに対し、ジェスは小声で答えを返した。


 「ふ~ん。知らなかった。あの水晶ってそんな機能もあったんだ」


 「ある訳ないだろう……」


 「え? じゃ、あれはどういう事?」


 驚くディルクに、わからないよとジェスは首を振った。


 「これで大丈夫でしょう」


 ゼノの声に、レネはそっと手を開く。


 「ありがとうございます。だいぶ楽になりました」


 「それはよかったです。ですが疲労もあるようなので少し眠った方が宜しいでしょう」


 ゼノは、立ち上がりながらそう言うと、彼女の手に触れる。そうするとレネは、すうっと眠りについた。


 「ありがとうございます」


 驚いた様子まま、マティアスクはゼノにお礼を言った。


 「いえ、大した事はしておりません。これで魔力を補給しただけです。後は、かなり疲労していたので眠らせました。眠るのが一番の回復になりますからね」


 そう述べながら、水晶を掲げたのち服の中に戻した。

 それを珍しく何も言わずにジッと見ているだけのディルクにゼノは話しかける。


 「水晶の事ですが、万が一の為に少し手を加えて魔力を入れてあります」


 「そんな事していいのかよ」


 「勿論ダメです。だから、秘密にお願いします」


 詫びれる様子もなくディルクにそう返し、人差し指を唇の前に立て言うゼノに、皆は唖然とする。


 「さて、本題に入りましょうか。彼女が魔力を空にするような事態になった事を含め、二度手間にならないように包み隠さずお話下さると助かります」


 チラッとレネを見て、ゼノは説明を求めた。

 マティアスクとソイニは顔を見合わせる。そして、こくんと二人して頷いた。


 「わかりました。包み隠さずお話します。あなたに孫の……ここにいる全員の運命を預けます」


 「良いでしょう。覚悟して聞きます。お話ください」


 ゼノがそう返すと、マティアスクは自分が眠りの術で眠らされていた事を始め、レネに妖鬼が取り憑いていた事、リズが魔女の能力を受け継いでいる事などを詳細に語った。

 また、迷いの森での事は、ジェスが中心に話を進め説明をする。


 レネに妖鬼が取り憑いていた事をこの説明で初めて知ったリズの両親は、驚きを隠せない様子で眠りについている彼女を見ていた。


 「これが事のすべてです。私が不甲斐ない為に事が大きくなり申し訳ありません」


 説明が終わると、マティアスクはゼノに頭を下げた。


 「マティアスクさんのせいだけではありません。私も傍にいながら気づけなかったのですから」


 「あなた方のせいではありません。すべて魔女が悪いのです」


 何故か頷きゼノもそう語る。


 「は? 俺たちのせいじゃないって言ってくれるのはありがたいけど、なんで魔女? そこ妖鬼だろう?」


 マティアスク達に非はなく悪いのは魔女だと驚くような事を口にしたゼノに、速攻ディルクはそう返した。


 「いいえ。あなた達は魔女の至妙の技に騙されたのです」


 「全然わかんねぇ……」


 ジェスもディルクの言葉遣いを注意するのも忘れ、うんうんと相槌を打つ。勿論、他の者も不思議そうにゼノを見ている。


 「それは、妖鬼のした事も魔女の仕業だと仰るのでしょうか?」


 「勿論、そうなります」


 ソイニの質問に肯定でゼノは返した。

 そのゼノの言葉に、皆は更に驚く。魔女が善という説を真っ向から否定する言葉だ。


 「申し訳ないが、出来れば我々にわかるように説明頂けますかな?」


 「よろしいですよ。但し、これはあなた達から聞いた話を踏まえ私が出した結論です。全てが事実とは保証できません」


 「はい。かまいません」


 マティアスクが頷くと、他の者を同じだと頷いた。

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