第17話~ジェスの本心

 ジェスは、ディルクの話を聞き、愕然としていた。


 「やっぱり僕が、一番ダメだな……」


 「は? いきなりなんだよ」


 独り言を呟いたジェスに、ディルクが突っ込む。


 「どうあがいても、落ちこぼれは落ちこぼれだって言う事だよ」


 「意味わかんねぇ。なんでジェスが落ちこぼれなんだよ。どっちかというと勝ち組だろう?」


 ジェスは、ディルクの言葉に首を横に振った。


 「もしよかったらジェス、あなたもここで懺悔してみてはいかかですか? あればですが」


 「僕の悩みなんてたかが知れてる。小さな悩みです。いや、悩みですらないかも……」


 ソイニの申し出に、ジェスはそう返した。


 「悩みの大きさは、他人が決めるものではありません。本人がそれで思い苦しむのであれば、それは大きなモノなのです」


 ソイニの言葉に皆、うんうん頷く。


 ――話したらこの不安は無くなるのだろうか?

 そう思いジェスもまた、語り始める。


 「僕は……三人の才能が羨ましかった。レネに至っては、マティアスクさんの孫だなんて、なんて恵まれているんだろうとさえ思っていたよ。悩んでいた事を知らずに……」


 「私、まだ、見習いなんだけど?」


 驚くリズに、そうだねとジェスは頷いた。


 「君に何事もなければ、僕よりは上だよ。僕は、怖かったんだ。四人の中で落ちこぼれるのが! どんなに頑張っても能力だけでは、追いつけなかった!」


 その話に、皆不思議そうな顔つきになった。


 「いや、追いついているだろう? 現に中級魔術師じゃん」


 「だから、せこい手を使ったんだよ。仕事を組む相手は、扱いやすい人を選んだり、仕事だって、自分に有利な仕事を選んでいた。そうやって、人より優秀に見せていたんだよ……。ムチだって、足りない分を補う為の一つに過ぎない。そうやって、レネについて来たんだよ!」


 「全然そういう風には見えなかったわ。私から見ると、ジェスは頼りになる友だったわよ」


 レネは、そうジェスに声を掛けた。


 「ありがとう。でも、今言った通り僕は、自分の事しか考えてなかった。いや、他人を気に掛ける余裕すらなかったんだ! 妖鬼だって言っていたよね。僕でもよかったって。見抜かれていたんだよ。……中級魔術師になれたのだって、実力ではない! うまく立ち回って手に入れた立場だよ!」


 最後はもう、ヤケになって叫んでいるようだった。


 「ジェス、君は勘違いをしているようだ。確かに中級魔術師になる能力があるが、それを発揮できずに上がれない者はいる。だが、その逆はいない。能力がない者が中級魔術師にはなれない。それとも君は、不正や人を騙してまで中級魔術師になったとでもいうのか?」


 「まさか! 不正や人を陥れてまで上に上がろうとした事は、ありません!」


 「だとしたら、今中級魔術師であるのは、正当な評価だ。それに、君に足りないモノは自信だ。もっと自信を持ってよい。まあ、こればかりは自分で解決する以外はないがな」


 マティアスクは、そうジェスを諭した。

 ジェスは、レネとは逆の悩みを抱えていたのである。


 「うんじゃ、次はリズだな!」


 順番だと言わんばかりに、ディルクは彼女の顔を覗き込む。


 「私にはないわよ。もう、レネのお蔭で解決しているわ」


 そう言ってにっこりとリズは、レネにほほ笑んだ。


 「ちぇ。オレがバシッと助言しようと思ったのにな」


 「君にそれが出来るとは思えないけど……」


 「じゃ、ジェスには出来るのかよ!」


 「うーん。内容によるかな?」


 「なんだよそれ! ジェスに出来るならオレにも出来る!」


 ジェスとディルクの会話に、皆が笑い出す。


 「いや、その自信どこから来るのですか?」


 「そんなの自分を信じているからに決まってるじゃん!」


 笑いながら聞いたソイニに、ディルクは真面目に答えた。


 「その自信、僕にもわけてほしいよ。今日だってこれであっているのかって、悩みながら進んでいたんだ。自分で選んだ選択が正しいか自信がなかったから……」


 ジェスは羨ましそうに言った。


 「間違っていても結果オーライだったらいいんじゃないか?」


 「そういう考え方が出来ていたら、こんな悩みはないよ……」


 「君たちは、ちょっと極端なのかもしれないな」


 「足して二で割ったら、ちょうどよいかもしれません」


 二人の会話に、マティアスクとソイニはそう言って笑った。


 「さてと、あまり遅くなったら二人に迷惑がかかるな」


 「そうですね。出口は近いのでしょうか?」


 「あの大きな木の後ろだ」


 ソイニの質問に、マティアスクは大きな木を指差し答えた。

 そんな近くに在ったのかと驚く。


 そして、今度はレネはおとなしく抱きかかえられた。ぞろぞろと木の裏手の魔法陣で、森の外に出て行く。

 こうして迷いの森は、また静寂に包まれた。

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