第9話~祠に入る資格

 「まぶしい!」


 リズは呟いた。


 真っ暗な洞窟から明るい場所に出た四人は、眩しさに手を目の前に持って来る。


 「ここって……」


 レネは、ジッと目についた大きな木を見ていた。


 「森の中だね。しかも、ゴールっぽい」


 「え? ゴール?」


 ジェスの言葉をリズは復唱する。


 「ほら、その大きな木の横に洞窟の入り口が……。今まで幻覚などで隠されていたのに、隠す事無く見えるから。たぶん、そこが祠の入り口じゃないかな?」


 「どれどれ」


 ジェスが指差した洞窟に、ディルクはためらいもなく入っていく。


 「ちょっと! だから勝手に……」


 「おぉ! なんか、奥、それっぽいかも!」


 奥は三十歩ぐらいで行き止まりになり、右手側からほのかに光が見えていた。


 「え? 本当?」


 ディルクに続き、興味に惹かれリズまでも中に入って行く。


 「………。君達さ、もう少し僕の話を聞いてくれないかな。何か仕掛けがあったらどうするんだよ」


 「何言ってんだよ。自分で祠だって言っていただろうが」


 「そうだけど、危険がないとは言ってないよ。……え!」


 バチっと音とともにジェスは、洞窟の入り口で跳ね返された!


 ――え? なんで?

 ジェスは、驚く。


 「なんだ? 何したんだよ」


 「それ、こっちの台詞。そっちで何かさわらなかった?」


 ディルクの言葉にジェスはそう返した。


 「どうしたの?」


 レネも洞窟の前までやってくる。


 「それが……。跳ね返されて入れないんだよね……」


 「跳ね返される?」


 バチ!

 レネが半信半疑でそっと手を伸ばすが、彼女もまた跳ね返される。


 「え? なんで二人は入れないの?」


 「さあ、ね。入れないんだったら仕方がないんだし、リズ、奥に行こう!」


 ディルクはリズの手を取り、奥に進もうとする。


 「待って! 私達だけじゃダメなんでしょう?」


 「そうだよ。入れる方法探すから待っていて!」


 慌ててジェスもディルクを引き留める。


 「別にいいじゃないか。すぐそこみたいだし、四人で確認したって事で」


 「でも、バレたらここまで来た意味がないだろう! 取りあえず、一旦二人ともこっちに戻って来て」


 「なんでさ? その必要はない。大体そんな事しても無駄だと思うけど?」


 「どうしてそう言い切れる?」


 ジッとジェスがディルクを見据える。


 「ねえ、ジェスの言う通り、一旦外に出ましょう?」


 リズの申し出にもディルクは横に首を振った。


 「それって、僕達が信用できないから?」


 「どちらかと言うとそうなる」


 「なんだよ、それ! 一緒にここまで来た仲間だろう?」


 ジェスの言葉にディルクは驚愕する!


 「仕方がないだろう? 誰が敵だか判断出来ないだから。それに、拒まれるって事は入る資格がないってことだろう……」


 「もう、いい! 勝手にすればいいだろう!」


 ジェスはディルクの言葉を聞き、その場にドサッと腰を下ろす。


 「ジェス……。ねえ、ディルク、一旦戻りましょう」


 「そんなにジェスの方がいい?」


 「そう言う事を言ってる訳じゃないわ! 全員で入れる方法を探しましょうって言っているのよ!」


 「ないよ!」


 リズの言葉に、ディルクはきっぱりと言い切った。


 「ねえ、もしかして、君。本当は僕達が入れない訳知っているんじゃないの? 話を聞いているとそんな感じがするんだけど……」


 「あぁ、もう! 知らなくていいことだってあるだろう!」


 ディルクから意外なが言葉が発せられ、ジェスは勘が当たったと思った。


 「ディルク、本当に何か知っているの?」


 「………」


 リズが問うもディルクは何も答えない。


 「ディルク、話してくれないか? 内容によってはおとなしく待っているから……」


 ディルクは、ジェスの言葉に観念したのか、小さくため息をつくと、ポケットに手を突っ込み小さな巾着を出した。


 「多分、これだと思う」


 「何が入っているんだよ、それ」


 ジェスは問う。

 ディルクは、そっと巾着を開け、三人に中身を見せた。

 それは、リズの左手首についている鈴と同じモノだった。


 「え? なぜそれを君が持っているんだ! って言うか一つだけのモノじゃなかったんだ!」


 「それ、どうしたのよ! まさか、盗んできた物じゃないでしょうね!」


 「盗む訳ないだろう! マティアスクさんから預かったんだ!」


 リズから疑いを掛けられ、慌てて否定する。


 「昨日、交渉に行ったらこれを渡されて、マティアスクさんがいない間、村を守れって……」


 「嘘よ! 孫の私だって渡されてないわ!」


 「本当の事を言って!」


 「嘘なんか言ってない! 本当にマティアスクさんから預かったんだって!」


 二人に攻めたてられ、一生懸命本当だとディルクは訴える。


 「わかった。預かったのは信じるよ。でも、それならさっき素直に言えばいいだけだよね? 本当は何の為に預かったの?」


 ジェスにそう言われ、ディルクは口ごもる。


 「やっぱり。何か隠しているんだね? 僕達にも言えない事?」


 「おかしいと思ったのよ。大人しく引き下がったみたいだから……」


 「そんなに知りたい? 言わないって事は言いたくない事なんだけど……」


 「勿論知りたいね。きっと僕達にとっていい話じゃないんだろうけど」


 ディルクは、ちらっとリズを見た。彼女は、こくんと頷く。


 「わかったよ。話すよ……」


 ディルクは一度大きく息を吐くと、彼にしては珍しく小さな声で話し始めた。

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