第8話~対立

 「ここで行き止まりみたいだな」


 ディルクはボソッと言った。


 しばらくして着いた場所は、だだっ広い空間になっており、今まで歩いて来た通路とは違い天井もかなり高かった。


 「オレ、ちと壁見て来る」


 「え? ちょっと……」


 ディルクは、ジェスが何か言う前に、今までしてきたように壁に手を当て走り出した。


 「はあ、仕方がない。僕達は地面を調べよう」


 「そうね……」


 リズは頷いて、ジェスの意見に賛成する。


 「うん……」


 レネも頷いた。


 三人は、地面を見ながら歩き始める。

 そして、ある程度調べ終わった四人は、中央に集まっていた。


 「壁は、三段階くらいにわけて調べたけど、隠れ通路はないみたいだ」


 「僕達の方も地面調べたけど、魔法陣らしきものは発見できなかった。とすると、天井だね」


 その言葉に全員、顔を上げ天井を見上げる。

 天井までは光が届かず真っ暗だ。


 「なあ、オレ腹減ったんだけど。飯にしない?」


 唐突にディルクが言う。


 「そうだね。腹ごしらえもしておいた方がいいかも」


 その意見にジェスが賛成する。


 「じゃ、お昼にしましょう! お母さんが作ったパンがあるから」


 そう言ってリズは、ディルクのリュックの中からてきぱきと、持たされたパンを皆の前に並べた。


 「あ、そういえば明かりどうする?」


 ディルクが聞いた。


 「パンだし片手で……」


 「私が灯してるから、先に食べて」


 ジェスの答えを遮るように、レネが名乗りあげる。


 「そ、そう? ありがとう。じゃ、お願いしようかな……」


 レネの申し出を素直に受け入れ、ジェスはお願いする。

 彼女は頷くと、もう片方の手にも明かりを灯した。


 「おぉ、ちゃんとおしぼりが入ってる」


 そういうとディルクは、それをジェスに渡す。

 三人は、汚れた手を綺麗に拭く。おしぼりは真っ黒になった。


 「いただきます」


 三人共パクッとパンにかぶりつく。

 食べながらリズは心配そうにレネを見ていた。

 勿論、ジェスも気になっていた。リズが狙われていると聞いてから元気がなくなり、今も両手に明かりを灯したままだらっと伸ばし、立てた膝に顔をうずめている。


 っと、突然辺りが真っ暗になった。


 ジェスとディルクは、慌てて手に明かりを灯す。

 レネを見ると、両手で膝を抱えている。


 「びっくりした……」


 ディルクは呟く。


 「レネ、大丈夫? 具合が悪いの?」


 リズの問いに、レネは膝に顔をうずめたまま、首を小さく横に振った。


 「別に消すのはいいけどさ、ひとこと言ってくれよ。びっくりするだろう」


 「ディルク……」


 ディルクがいつもより控え目に文句を言うと、ジェスが首を振って止める。


 「ごめん。少し時間を頂戴……」


 「え? 時間?」


 「は? って、おい」


 二人が驚いて声を掛けるもレネからは返事は帰ってこなかった。


 「レネ……」


 リズは心配そうに呟くと、レネの隣に膝を抱えて座り込んだ。


 「どうする?」


 「どうするって言われてもなぁ……。とりあえず、三人はここに居て。僕は、天井を見て来るから」


 「あ、じゃオレも行く!」


 「いや、君がそこ離れたら明かりがなくなるだろう? 大人しくそこにいて」


 ジェスはいつもより強めに言って、返事も聞かず天井に飛んでいく。

 それをディルクは無言で見上げた。


 「はぁ……」


 ため息をつくと、今度はディルクまで膝を立て顔をうずめた。


 「え? ディルク大丈夫?」


 「あ、うん。大丈夫。歩き疲れただけだから……」


 ディルクも元気がなくなっていた。


 ディルクだけじゃなく、皆が体力的にも気力的にも限界がきていたのである。


 「あった!」


 天井からジェスの声が聞こえ、二人は見上げた。

 彼はちょうど真ん中に浮いていた。そして、スッと三人の所に降りて来る。


 「真ん中に直径二メートルほどの魔法陣があったよ。一つ目の魔法陣と同じみたいだから、ワープする魔法陣だと思う」


 ジェスはそう説明すると、どうしたものかとレネを見た。


 「レネ、動けそう?」


 そっとジェスは声を掛けるも彼女は反応を示さない。


 「寝てんのか?」


 「寝てはいないと思うけど……。まいったなぁ。出来るだけ急ぎたいんだけど……」


 「十分ぐらい待ちましょう。というか、皆で休みましょう。それぐらいいいわよね?」


 リズの提案を受け入れ、もう少し休憩をする事にする。

 食べた物を片付け、三人はただジッと座っていた。



 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆



 「そろそろ時間だね。レネ、僕の声聞こえてる?」


 「………」


 「ダメだ。反応ないな。どうする? 置いてく?」


 「そんなのダメよ!」


 ディルクの提案に驚いてリズが反対した。


 「……そんなに怒る事ないじゃん」


 ――このままじゃダメだ!


 ジェスはある決断をすると、ディルクに声を掛ける。


 「ちょっとこっち来て。ごめん、リズ。少し暗くなるけどそこに居て」


 頷くリズを確認すると、むくれるディルクをグイッとジェスは少し離れた場所まで引っ張って行く。

 残されたリズ達の辺りは薄暗くなった。


 「なんだよ……」


 「お願いがあるんだけど……」


 「お願い?」


 「レネと一緒に残ってくれないか。彼女一人残しておくわけにもいかないし。かといってこのままここに居る訳にもいかないから。僕とリズで先に行くからレネが動けるようになったら追いかけて来て欲しいんだ」


 「はあ? 行くならオレとリズで行く!」


 「だからそれじゃダメだからお願いしているんだろう。今朝言ったけど親族証言ではダメなんだ。わかって欲しい」


 「それは、わかってる。けど、二人では行かせられない!」


 「わかってないだろう! そんなに僕が信用できないか!」


 突然ジェスは、ディルクの胸倉を掴み、今まで聞いた事ないような怒鳴り声を上げた!

 驚いたディルクは、何も言い返せずただジッとジェスを見つめる。


 「え? 何? どうしたの?」


 勿論リズも驚いていた。普段声を荒げないジェスが、ディルクに怒鳴ったからである。だがそれでもレネは、一切反応を示さず膝を抱えたままだった。


 パッとジェスは、ディルクから手を離す。


 「ごめん。なんでもないから。リズはレネについていてあげて」


 そういうと、ジェスはディルクに向き直る。

 その顔は真剣そのものだ。


 「な、なんだよ……」


 「お願いだからいう事を聞いてくれ。もう、リズだけの問題じゃないんだ。この作戦が失敗したら……僕達の未来はない! 勿論、君の両親だって。城の者を騙し作戦が失敗したら、もし怪我なく戻ったところでどうなるかわからない。僕達を信用してくれた、ゼノさんだって責任を取らされるかもしれない……。だから……」


 「そんな! 私、そんな事考えもつかなかった……」


 「え! リズ、君いつの間に!」


 大人しく待っていると思ったリズだが、近くに来て話を聞いていたのである。


 「ごめん。それでも無理だ。それに覚悟はとうの昔についてる……」


 「何を言っているの! あなただけの話じゃないでしょう!」


 ディルクの返事にリズは驚きの声を上げる。


 「じゃ、何? 彼女一人残して先に行く? それとも元気を取り戻すのを待つっていうのか?」


 「それは……」


 「ごめんなさい。心配かけて。もう大丈夫よ……」


 その声に三人は驚いて振り向いた。リズの後ろにレネが青い顔をして立っていた。


 「大丈夫って……。一体どうしたんだよ」


 つい強い口調のまま、ジェスはレネを問い詰める。


 「………」


 「そんな事、もうどうだっていいだろう? 動けるようになったんだ。先に進もう。急ぎたいんだろう? リズ、手!」


 ディルクはそう言うと、リズの手を取り天井に飛んでいく。


 「ちょっと待てって! 全員で行かないとダメだ!」


 慌ててジェスはレネの手を取り、二人を追いかける。


 「頼むから勝手な行動はしないでくれ」


 「はあ? いつからジェスがリーダーになったんだよ!」


 「やめなさい! ディルク。ごめんね、ジェス」


 「……あ、いや。僕も怒鳴って悪かった」


 ジェスは、落ち着こうと大きく息を吸って深呼吸する。


 「全員で手を繋ごう」


 そう言うと、ジェスは明かりを消し、ディルクに手を差し出す。


 「レネとリズも繋いで。輪になろう」


 「いや、真っ暗になるだろう?」


 「問題ない。僕の合図で両手を上げればいい。離れ離れになる事だけは避けたい」


 「別に輪にならなくたって……」


 文句を言いながらも明かりを消し、ディルクはジェスの手を取った。

 輪になって四人はジェスの合図で両手を上げる。

 天井に触れた感触を感じた。

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