第7話~ジェスが持っていた疑惑

 四人はゆっくりと洞窟の中を歩いていた。

 ジェスが一番右端を壁に手を付けながら歩き、隣のレネが明かりを灯しながら歩く。そして、一番左端をディルクが歩きジェス同様壁に手を付け右手に明かりを灯している。

 リズはディルクとレネの間を歩いていた。

 洞窟の入り口を教訓に、幻覚で隠された道がないようにする為の対策だった。


 「はあ、腕だる……」


 ディルクはボソッと漏らした。

 ニ十分ほど両腕を肘ぐらいの高さに保ったまま歩いていたからである。


 「そうよね。私代わるわ! それぐらいできるもの」


 「そう? じゃ、宜しく」


 余程疲れたらしく、リズの申し出に素直に交代してもらう。


 「私も代わるわよ。ジェス」


 「悪いね。助かるよ」


 ジェスとレネも交代する。


 「僕、ずっと考えていたんだけどさ……」


 空いた右手に明かりを灯し、ジェスはそう切り出した。


 「妖鬼はなぜ、リズを選んだのかって……。昨日までは、僕達クラスに術を掛けるとバレるからかなって思っていたけど……」


 「リズに術? 城のやつらじゃなくて?」


 ディルクの問いにジェスは頷く。


 「僕は、人より邪気を感じるのが鋭いらしくて。特にそれに触れれば一発でわかる」


 「それと、今の話とどう繋がるんだよ」


 「実は昨日、リズを見つけた時に彼女に触れたんだ。その時、微かだけど邪気を感じて……」


 言いづらそうに、そうジェスは語った。

 それは、リズに術が施された可能性を意味する。


 「はあ? なんでもっと早くそれ言わないんだよ!」


 「いた……」


 ジェスは、興奮したディルクに左腕をつかまれ声を漏らした。


 「あ、ごめん……」


 ディルクは、急いで手を離すと文句を続ける。


 「それ……どうしてマティアスクさんに言わなかったんだよ。言っていたらこんな事になっていなかったかもしれない!」


 「ディルクやめて! ジェスは悪くないわよ!」


 リズがそう言うと、ムッとしてジェスをディルクは睨んだ。


 「ごめん。言うつもりでいたんだ。でも、皆の前では言いづらくて。昨日、君がマティアスクさんの家にあの後残っていたし。だから、朝こっそり言おうと思っていたんだ。わかってる。今更こんな事言っても言い訳にしかならないって……」


 「なんだよそれ! オレが悪いっていうのかよ!」


 「そうじゃない!」


 「落ち着いて二人とも! たぶんジェスがそれを伝えていた所で何も変わってないわよ。おじいちゃんに術をかける相手よ!」


 「ごめんね。私が自分で気づければ……」


 四人の空気は、一気に重くなる。

 ディルクは、落ち込むリズをチラッと見てぶっきら棒に言った。


 「で、結局何が言いたかったんだよ」


 「実力から言えば、僕らに術をバレずに掛けられたんじゃないかって事。つまり、誰でもよかったんじゃなくて、意味があってリズを選んだんじゃないかなって」


 「リズをなんで!」


 「それは、わからないけど……」


 首を横に振りジェスは答える。


 妖鬼は優秀な者を選ぶとされている。体を乗っ取るのだから当たり前だ。S級のマティアスクに術を掛けられるぐらいなのだから、初級にもなっていないリズを選ぶのは、普通ならあり得ない。


 リズを妖鬼に乗っ取られた者に祭り上げたのだとしたら、何か意図があるのに違いないとディルクは思った。


 「それと……」


 「まだ、何かあるのかよ」


 ジェスは、左の傷を右手でギュッとつかむ。


 「さっきのトラの事だけど……」


 「トラ? いなくなった原因でもわかったのかよ」


 ディルクの問いに、ジェスは首を横に振る。


 「じゃ、なんだよ」


 「トラに付けられた傷に触れた時に、微かに邪気が残っていて……。それが、リズに掛けられた気と同じモノだったんだ。だから、あれはもしかすると妖鬼の仕業なのかもしれない……」


 「マジかよ……」


 「そんな……」


 レネもボソッと呟いた。


 「今、言った事が本当ならリズが狙われているって事だよな? で、妖鬼は近くにいるって事にならないか?」


 「え?」


 リズはディルクの言葉に驚く。ディルクは二人をジッと鋭い目で見ていた。


 「わ、私達を疑っているの?」


 レネは震える声でそう聞いた。


 「まあ、そういう考えに至ってしまうよね。でも、森には空を飛べれば誰でも入れる。来るのがわかって待ち構えていたのかもしれない。それに、あれ以上攻撃してこなかったのは、もしかしたらこうやって仲間割れさせる為かもしれないし……。僕が伝えたかったのは、妖鬼の狙いはリズ本人なんじゃないかって事」


 「私を……?」


 ジェスが頷く。


 「不安にさせてごめんね。妖鬼がなぜリズを狙っているのかわからないけど。伝えておいた方がいいかと思って……」


 「……言いたい事はわかった。今は、二人を信じるしかないし。仲間割れしてる時でもない。とにかく前に進むもうぜ」


 ディルクの言葉に三人は頷くと、また壁に手をつけ歩き始めた。

 四人の靴音が不気味にこだまして聞こえる――。

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