第5話~迷いの森の守護獣?!

 四人は空を見上げていた。いや、正確には絶壁を見上げていた。

 そして、今度は足元に目をやると、深い溝が左右に広がっている。

 ここは、マティアスクが言っていた祠の入り口がある場所の前。


 迷いの森は、この溝に絶壁ごとぐるっと囲まれていて、迷いの森に近づく事自体も魔術師以外には困難である。


 「とりあえず、森の上を飛んで絶壁に何かないか探してみよう」


 ジェスの意見に三人は頷いた。


 「うんじゃ、手」


 ディルクは、リズに手を差し出す。リズはその手をギュッと握った。

 彼女はまだ空を飛べない。空が飛べる事が中級魔術師になる条件の一つにある為、勿論三人は空を飛べる。

 四人は、森に面した絶壁に何かないか浮遊しながら探していた。


 「あれ、洞窟じゃない?」


 レネが指差す場所は、ぽっかりと穴が開いているように見える。


 「行ってみよう」


 ジェスを先頭に、その洞窟らしき場所に降り立つ。


 「そんなに深くなさそうだね」


 ジェスは、ポッと右手に明かりを灯し奥を覗いてそう言った。レネとディルクも同じように手の平に明かりを灯す。

 そして、二人も辺りを見渡した。

 やや真っ直ぐ進むと、右側に道があるように見える。


 「行こう」


 ジェスの言葉に頷き四人は進んでいき、右側に折れるとまたすぐに右側に道があった。

 そして、すぐに行き止まりだったが、そこには魔法陣が地面に描かれている。


 「もしかして、これが入口か?」


 「たぶんね。万が一の事を考えバラバラに飛ばされないように手を繋ごう」


 ジェスはディルクにそう答え左手をレネに差し出すと、彼女は頷き明かりを消して手を繋いだ。反対側の手でリズと手を繋ぐ。


 「じゃ、行くよ。一、ニの三」


 ジェスの合図で四人は魔法陣の上に乗った。浮遊する感覚があり一瞬で景色が変わる。


 「ここって、森の中?」


 リズがボソッと言うと、ディルクが頷く。


 「たぶんな。まず、この森を攻略しなきゃいけないんだよな」


 キョロキョロとディルクは辺りを見渡す。


 「とにかく、はぐれないようにしないと」


 ジェスの言葉に頷くと、四人はどことなく歩き始める。


 暫くして無言で歩いている事に耐え切れなくなったディルクがぼそりと呟く。


 「この道であってるか?」


 道といっても道無き道を歩いている。はっきり言って歩きづらい。


 「ねえ、ちょっと休まない?」


 そして一時間ほど歩いた時、レネがそう言い出した。


 「そうだね。休み休み行こうか」


 とりあえず四人は、その場に座り込んだ。


 「今、何時だろう?」


 「入口の前についたのが、五時半過ぎていたと思うから七時近いかもね」


 何気なく言ったディルクの問いにジェスは答えた。そして、がばっと振り向く。

 ゾッとするような、邪気を感じたからでだった!


 「ちょっと皆、立って!」


 慌てて立ち上がるジェスに倣い、三人も立ち上がる。


 「は? トラ? ここってそんなのいるのかよ! 本物初めて見た!」


 ディルクも振り向くと驚いてそう言った。


 「それは知らないけど、ただのトラじゃないと思うよ」


 ジェスとディルクは、二人の前に出た。

 そのトラの姿をしたモノは、こちらをジッと見つめている。


 「絶対に火系は使うなよ」


 「わかってるよ!」


 ジェスに言われ、ディルクは少しふてくされて答える。


 「来た!」


 ジェスの言う通り、一直線にトラは四人に向かってきた。


 「この!」


 ディルクは、両腕を内側から外側に大きく振った。

 それと同時にシュッと風を切る音が聞こえる。

 彼は、風の刃を放ったのである。


 「は? 一つも当たってない?」


 トラは驚いた事に、怪我をした様子もなく、突進をやめない。


 「じゃ、これはどう?」


 そう言って今度はジェスが、三メートルほど浮くとディルクのように内側から外側に向かって両手を振った。

 トラに向けて氷の矢が降り注ぐが、それも難なくかいくぐる!


 「ダメか! 三人共こっちに!」


 それを聞き、レネはリズの手を取り宙に浮く。勿論、ディルクも。


 「ありがとう。レネ」


 だがお礼を言い終わるか終わらないかぐらいに、トラは四人にめがけて大ジャンプをしてきた!


 「マジかよ!」


 「危ない!」


 ジェスはリズの手を取り、ディルクはレネの手を引っ張った。二人は繋いだ手を離し、それぞれの胸の中に倒れこんだ。そして、出来た二人の隙間をトラは通り過ぎ地面に着地する。


 「おいおい。空中も安全な場所じゃないのかよ!」


 「ちょっと! あなたの担当はリズでしょう!」


 「は? そんな事気にしている暇あったか?」


 つかんでいたレネの手を乱暴に離すとディルクは、二人の方に向かおうとするが、それをトラは邪魔をするようにジャンプしてきた!


 「なんだよ。こいつ! 魔法は効かないし!」


 「もしかして、祠を守る為に召喚されたモノじゃない?」


 「かも知れないね。マティアスクさんは何も言ってなかったけど。可能性はあるかな。この世界のモノじゃなかったら魔法が効かないのもわかる」


 リズの意見にジェスは納得して、頷きながら語った。


 「で、どうするんだよ」


 「うーん。何か武器持ってる?」


 「持ってるわけないだろう? オレ魔術師なんだから」


 「だよね……」


 ジェスの問いに、当然ないとディルクは答える。


 「て、いうか。武器攻撃は効くのかよ」


 「両方効かないモノはいないって聞いた事がある」


 ディルクの問いにそう答えると、スッとジェスは地面に降り立った。


 「ちょっと離れていて」


 ジェスに言われ、リズは頷くと後ろに下がる。


 「あ! 何、降りてんだよ!」


 「これ試そうかと思って……」


 やや大き目なポーチからなんと、ムチを取り出した!


 「なんでムチなんか持ち歩いてるんだよ!」


 ディルクは、ギョッとして驚いた。


 「僕の武器だよ。トラにはお誂え向きな武器だろう? これ便利なんだよ。飛んでくる武器を叩き落とせるし。物を捕らえる事もできる。勿論、武器としても使える」


 「……便利そうだけど、そのチョイスは……」


 説明をしながらもジェスは、ビシバシとムチを振るっていた。ただし、相手が遠すぎるので、地面を叩き石などを相手に飛ばす程度である。


 「なぁ、その方法、埒が明かなくないか?」


 「そう言われても……。懐に飛び込む程の腕前はないんだよね……」


 「使えねぇ」


 「だったら他の方法を考え……え!」


 二人が小競り合いをしていると、トラが突然大きくジャンプをした! 少し離れたリズさえ飛び込え反対側まで回る。そして、猛突進してきたのである!


 「何! やべぇ」


 二人は慌ててリズを救出しようと動くが間に合いそうもなかった!

 リズはどうしていいかわからず、その場に固まっていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る