第4話~一か八かの作戦

 次の日ジェスは、村長であるマティアスクにある事を相談しようと朝早く起きていた。時間はまだ午前三時である。


 「早すぎるかな?」


 そして、十分ほどかけ早い朝食を食べ終わった時だった。

 ドンドン! っと勢いよくドアがノックされる。


 「誰だろう? こんなに朝早く」


 ジェスはドアを開けた。


 「はい? え? レネ?」


 ドアを開けるとそこにはレネが立っていた。

 彼女は泣きながら訴える。


 「お、おじいちゃんが! おじいちゃんが目を覚まさないの!」


 「え? ……わ、わかった! 直ぐに一緒に行くから。少し待っていて!」


 驚くも、もう出かける用意をしていたジェスは、腰にポーチを巻き急いで家を出た。


 「ソイニさんの所に寄ってから行こう! 大丈夫だから」


 ジェスの言葉に、レネは頷き涙を拭きながらソイニの家に向かう。

 ソイニならもう起きているはずだと、ジェスは思った。

 村長のマティアスクが家を空けるので、留守番をする為に出掛ける時間には家に行く。だから支度をしているはず。


 「すみません。ジェスです! 急用があります!」


 やや強めにドアをノックすると、直ぐにソイニは出て来た。


 「おはよう。どうしました? ……マティアスクさんに何かありましたか?」


 レネの様子を見て、ソイニはそう問いかけた。

 二人はそれに頷く。


 「わかりました。直ぐに向かいます。申し訳ありませんがジェス、リズアル達を呼んできて頂けませんか?」


 「はい!」


 ジェスは、返事をすると、すぐさまリズ達の家に向かった。


 リズの家のドアをソイニの時同様、強めにノックする。

 出てきたのは父親で、もう既に四人共起き、食事をしている最中だった。


 「すみませんが、直ぐにマティアスクさんの家に来て頂いていいですか?」


 「何があった?」


 「詳しい事は、僕も……」


 「わかった。少し待っていてくれ」


 リズの家族とジェスは、急いでマティアスクの家に向かった。



 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆



 到着した五人がマティアスクの家の中に入ると、ソイニが困りはてた顔で待っていた。


 「ソイニさん、一体何が起こったのです? マティアスクさんは……」


 「それが何とも困った事になったのです……。とりあえず、こちらに」


 ソイニが部屋のドアを開けると、ベットに横たわるマティアスクの手を握って、目を真っ赤に腫らしたレネの姿が目に飛び込んで来た。


 「さっき突然僕の元にレネが来て、マティアスクさんが大変だって。慌ててソイニさんに連絡して……」


 「私、昨日の夜ここに泊まったの。おじいちゃん、用がある日は一時間前には出かけられるように用意をしていたから、三時ぐらいには起きるって言っていたのに起きてこないから見たら……」


 「大丈夫です。命には別状はありません。眠りの術のようなので……」


 「大丈夫じゃないだろう! どうすんだよ!」


 ディルクは、ソイニそう返した。そして、マティアスクに近づき怒鳴った。


 「おい! 起きろよ! リズを守ってくれるんじゃなかったのかよ! 今回、オレちゃんと引き下がったのに!」


 「ちょっとやめないさい!」


 驚いたリズは、ディルクを制止しようと手を引っ張る。


 「だって、このままじゃ!」


 「う、う……」


 「え?」


 「起きた……」


 そのディルクの言葉に皆がマティアスクに近づいた。


 「マティアスクさん、わかりますか?」


 ソイニが話しかけると、目を開きマティアスクは頷いた。それを見て皆安堵する。


 「よく聞いてほしい。……私抜きでも予定通り、リズアルを連れて祠に行ってほしい。……入口は……迷いの森に面する絶壁……」


 マティアスクは、ふとレネに振り向く。


 「……レネ……」


 そしてまた、眠りに落ちた。


 「え? ちょっと待てって! 起きたんじゃないのかよ!」


 「やめなさい!」


 今度は父親に引っ張られ、ディルクはベットから遠ざけられる。


 「ソイニさん、どうするんですか? 今の本当にマティアスクさんが話した言葉なんでしょうか」


 ジェスの問いかけにソイニは頷く。


 「マティアスクさんに術をかけるなど、そこら辺の上級魔術師でも至難の業でしょう。それを考えると、先ほどの言葉は本人の言葉で間違いない。なぜ一時期術が弱まったかはわかりませんが……」


 ディルクがその言葉に強く頷くとリズに言う。


 「行こう、リズ! こんな目にあっても祠に行けって言っているんだ。オレが絶対に連れていってやるから!」


 「いや、待てって! 君じゃだめだ!」


 「は? なんでだよ!」


 「たとえ、成功したとしても親族の証言を信用してくれるかわからない。物証を持ち帰ったとしてもね」


 「ジェスの言う通りだ」


 ソイニもそう言うと、ダンっとディルクは足を踏み鳴らす!


 「じゃ、どうするんだよ!」


 「私が行くわ! 親族じゃないし、おじいちゃんの孫だし……。信用して頂けるでしょ?」


 突然レネがすくっと立ち上がり、そう宣言する。

 皆驚いて、彼女を見た。そして、ソイニを見る。

 腕組をしたまま、ソイニは天を仰いだ。


 「仕方がありません。マティアスクさんの意思でもありますし。リズアル、宜しいですか?」


 「はい」


 緊張した趣でリズは頷いた。


 「オレも行くからな! 絶対に!」


 「これ、ディルク!」


 父親が制するが、ディルクはリズの手を取る。


 「わかっています。あなたが引き下がらない事は。ジェス、あなたも同行して下さい」


 「僕も? はい。わかりました」


 その答えにソイニは頷くと話を進める。


 「よく聞いて下さい。状況は最悪ですが、まだ、望みはあります。道のりを知っているマティアスクさんが行けない以上、迷いの森を抜けるのはかなり手こずると思われます。城の者が来るまでには戻れないでしょう」


 皆がうんうんと頷く。


 「ですが、城の者をこの家に招き入れる事は出来ません。そこで、エリーク夫妻にお願いがあります」


 「はい。何でも言ってください」


 リズの父親がそう答えると、ソイニは頷き続ける。


 「二人には、城の者をあなた方の家に引き付けておいてほしいのです。一緒に同行しているはずのマティアスクさんが、ここにいるのが知れればこの作戦は破たんします。本当は、私が同行できれば一番よいのですが、私までいなくなれば村の人たちがおかしいと気づくでしょう」


 「わかりました。やってみます」


 二人はソイニの言葉に頷いた。


 「ジェス」


 「はい」


 「あなたは、四人の中で一番冷静に物事を判断出来ます。三人のまとめ役お願いしましたよ」


 「はい……」


 やっぱりと少し引きつった顔で頷いた。


 「よし! そうと決まれば出発だ!」


 「なんか、ごめんなさい。私の為に……」


 「何言ってるよの、水臭いわね」


 「君は何も悪くないから」


 そう言って、レネとジェスはリズにほほ笑んだ。リズも頷きほほ笑み返す。


 「あ、そういえば、オレ達が祠に行っている間って、ソイニさんって何してるつもりなんだ?」


 「一応、術を解くのを試みてみます。今、出来るのはそれしかないでしょう……」


 「そうだわ。昼までに戻ってこれないならお弁当が必要よね? すぐに作るから待ってくれる? それぐらいの時間はあるでしょう?」


 リズの母親の申し出に四人は頷いた。

 役割分担も決まり、不安は残るが祠に出発する事になった。

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