第3話~村長マティアスクの提案
ゼノは、何も返さずジッとリズを見つめている。
「少し落ち着きなさい。まあ、気休めだがこれでも付けておきなさい」
皆をなだめたかと思うと、突然マティアスクはリズの首に何かをさげた。
それは、直径五センチほどの鈴だった。
「これは、妖鬼の力を弱める魔女の鈴。マジックアイテムだ」
その言葉にどういう意味だ! リズが妖鬼だと言うのか! と、普段なら言い出すはずのディルクはしゃがみ込み両手で口を押えていた。
そのすぐ後ろにいるジェスも下を向き肩を震わせ、反対側にいるレネもまた片手で口を押え笑いを堪えていた。
「もう、無理! あははは。猫、猫!」
そう言いながらバシバシと床を叩きディルクが笑い出した。
「っぷ」
レネも耐え切れず、吹き出す。
「マティアスクさん、ひどくね? あははは……」
「それはすまなかった。首ではなく、手の方がよかったか」
どちらかというとディルクの態度の方がひどいような気もするが、素直にマティアスクは謝った。
「そ、そうですね。私も手首に付けた方がいいかな……」
赤面しながらリズは鈴を外そうとするが外れない。
「それは付けた者しか外せない。どれ、付け替えてやろう」
マティアスクは、鈴を首から外しリズの左手首く付け替える。そうすると長かったチェーンが手首に合わせて縮まり、サイズがぴったりになった!
「も、もう。おじいちゃんてば、お腹がよじれるかと思ったわ」
「これ、こういう場ではせめて村長と呼びなさいと言っているだろうが……」
「はーい……」
そのやり取りを聞いてゼノが目を丸くする。
「あなたが、マティアスクさんのお孫さんでしたか。マティアスクさんのお孫さんだけあって、とても優秀だとか」
その言葉を聞いて一瞬、レネがゼノを睨み付けるように見た!
「その言葉、全然嬉しくないわ」
そして、そう言うとレネはそっぽを向いた。
「おや、そうですか。それは失礼を……」
「ところでゼノさん、折り入ってお願いがあります。リズアルが城に行くのは明日の午後からにして頂けませんか」
「リズを売り渡す気かよ!」
驚いてディルクが抗議をする。
「まさか。時間がほしいと言っているだけだ」
「構いはしませんが、明日には違いありませんので。しかし、何をするおつもりで? まさか、魔女を探し出し妖鬼を何とかしようというお考えではありませんよね?」
ゼノの皮肉っぽい言葉にマティアスクが頷き、ゼノだけでなく全員が驚いた。
「遠からずと言ったところです。彼女に妖鬼が取り憑いていない事を証明しようと思っております」
「え? そんな方法があるの? おじいちゃん」
マティアスクは、あると頷いた。
「ゼノさん、この村が何と呼ばれているかご存知ですかな」
「魔女の村ですよね……」
「優秀な魔術師が生まれる村だからだけではなく、伝記の魔女がいた村という意味もあるのはご存じで?」
「それはまあ……。ですが、あれは伝記であって確証はありませんよね? 妖鬼に至ってもそうです。今まで一度も現れた事はなかった。だからこそどうしたものかと対処を困っているのですが……」
突然の問いにゼノは不思議そうに答えた。
「実は、この村の村長になった者だけが受け継ぐものがあり、その中に真実の祠という場所の言い伝えがあるのです」
「そんな場所聞いた事ありませんが? 今作った話ではありませんよね?」
ゼノの言葉に、まさかとマティアスクは首を振る。
「王すら知らない話です。私が村長を務めている時に妖鬼の封印が解かれるとは……」
「え? 封印? どういう事です? 妖鬼は封印されていたと言うのですか?」
ゼノは封印という言葉に驚き聞いた。
「私が受け継いだ文献にはこう書かれています。魔女は妖鬼を封印したと。そして、妖鬼の封印が解かれる時、魔女も目覚めると……」
「そんな話聞いた事がありません。私が知っているのは、邪悪なる妖鬼が人を魅了した時、聖なる魔女が現れ妖鬼を排除する。まあ、今まで妖鬼も魔女も現れた事もなく、今では魔女は魔術師の称号として扱われておりますがね」
「マティアスクさん、それって妖鬼の封印を解いた者がいるという事ですか? それとも自然に……」
ジェスも驚いた様子で聞く。
「たぶん、封印を解いた者がいるのだろう。その者に妖鬼が取り憑いているはず。文献通りだとするとな。勿論、それなりの魔術師が解いたはずだが」
「じゃ、ますますリズじゃありえないだろう」
「残念ながら、その話を城の者が納得するとは思えません」
「なんで!」
ディルクの質問に、ゼノはため息をつく。
「わからないのですか? リズアルさんを守る為に作り話をしているようにしか聞こえないと言っているのです。だいたい、都合が良すぎるでしょう」
「何! マティアスクさんが嘘言っていると言うのかよ! それに、都合よくつじつま合わせてるのはそっちじゃないか!」
「バカ! ディルク言葉遣い! じゃなくて、もうしゃべるな」
「なんだよ! ジェスはどっちの味方だよ!」
「こっちの部が悪くなるって言っているんだ。相手を怒らせるなって事だよ」
小さな声でジェスは言ったが、その声はゼノに届いていた。
「別に怒りはしません。ただ、それでは相手を挑発して事を荒立てるだけです」
「そんな事はわかってるよ……」
珍しくディルクは肯定し、俯いた。本人にもその自覚はあったのである。
「まあ、それを証明する為にも祠に行きたいのだが。宜しいですかな?」
「で、その祠はどこにあるのでしょうか?」
「迷いの森にあります。勿論、祠までの行き方も知っております。ですので、半日頂ければ、戻ってこれると思います」
ゼノはぐうを作った右手に顎を置き、う~んとひと唸りしてから口を開く。
「まあ、封印の話はともかくとして、祠に行くのは認めましょう。そこで儀式でもするのでしょうが、一つだけ約束して頂きたい。絶対に逃げにないで下さい。儀式に失敗したとしても。私もそれだけは困りますので……」
「勿論。逃げも隠れもしません」
頷き、マティアスクはそう答えた。
「なあ、この鈴、壊れてないか? 音が聞こえないけど……」
話がまとまるやいなやディルクは、リズの左手をつかんでブンブンと振って言った。
「ちょっと、ディルクやめてよ」
「あ、ごめん」
「その鈴の音は邪を払うらしい。普通の者には聞こえないのだろう。といっても使うのは初めてだがな」
「効果があるかどうかわからないものをリズに付けたのかよ」
「無いよりはいいだろう。これ以上妖鬼に何かされないようにする為にも」
ディルクは難しい顔つきになる。
「本当に効くのかこれ?」
「効いてもらわんと困る。いいか、リズアル。明日祠から戻って来るまでは決して外すではないぞ」
その言葉にこくんとリズは頷いた。彼女にさえ外す事が出来ないのだが。
「興味深いですね。儀式が終わって不要になったら、少しの間でいいのでお貸し頂けないでしょうか?」
「一体、何に使うおつもりで……」
余程驚いたのかソイニが聞いた。ゼノの言葉に彼だけではなく全員が驚き、彼を見ている。
「あ、いや。こう見えても実は私は、研究者なんです。ただ単に研究者としてそのマジックアイテムに興味があるだけで、他意はありません」
「え……。研究者なのに、ここに来たのですか?」
今度は驚きでジェスが、自然と質問をしていた。
「おわかりだと思いますが、この妖鬼の件はトップシークレットです。そのおつもりでお願いします。それでですね。恥ずかしながら打つ手がなかったようで、私の方に何か対処できるアイテムがないかと訪ねてきまして……。ありませんとお答えすると、手が空いている者がいないからと、私が遣わされました。暇ではないんですがね……」
最後は愚痴になっている説明を皆はあんぐりと聞いていた。
「それは、忙しい中ご苦労様です」
マティアスクは、そう返すしかなかった。
「そういう訳で、私には何の権限もありません。ただの連絡係です。さて、話もまとまりましたし、そろそろお暇いたしましょう」
そう言うとゼノは、スタスタと玄関に向かう。慌ててソイニがその後を追った。
玄関の前で立ち止まったゼノが振り返る。
「皆さん、色々言って嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした。リズアルさん、良い仲間を持ちましたね。では、失礼させて頂きます」
これまた突然の言葉にポカンとする皆に礼をすると、扉を開け城に向かって飛び去って行った。
ソイニが扉をパタンと閉める。
「どういう事だ? オレ達の事かき回しておいて……。意味わかんねぇ」
「もしかしたら、僕達試されていたのかも」
「ジェスの言う通りかもしれない。まさか研究者だったとは。彼は切れ者かもしれません。城の者だって暇そうにしているからと、無能な者はよこさないでしょう」
ソイニは、難しそうな顔つきでそう言った。
「そうだな。城の方も妖鬼については隠密に事を運びたいようだ。最小限の者しか知らされていないのだろう。彼も言っていたが、この件は他言無用だ。よいな」
マティアスクの言葉に、皆が頷いた。
「それでマティアスクさん、先ほどの祠の件なのですが本当なのでしょうか? 娘の容疑を晴らして頂けるのでしょうか?」
リズの父親の質問に、マティアスクは静かに頷いた。
「明日早朝にリズアルと一緒に祠に向かう」
「しかし驚きました。魔女と妖鬼の伝記がもう一つあったとは」
ソイニも知らなかったようで、ぼそりと呟く。
「私は、今まで妖鬼が出現しなかった事から、この村に伝わる封印の伝記の方が正しいのではないのかと思っている。ただわからないのは、なぜリズアルを妖鬼が取り憑いている者として選んだかだ」
「そうですよね。息子ならまだしも……」
リズの父親もうんうんと頷いて賛同する。
「だよなぁ。オレの方がしっくりくるよな」
「まあ、何にせよ。全ては明日にかかっている。リズアル、少し早めだが五時に集合だ。よいか?」
「はい。わかりました。宜しくお願いします」
リズがそう答え、頭を下げると両親も一緒に頭を下げた。
「では、明日の為に今日はゆっくり体を休めましょう」
リズの母親の言葉を皮切りに、次々とお疲れさまと部屋を出て行く。
そして、しばらく皆で夜道を歩いていると、ふとジェスが声を上げる。
「何か静かだと思ったら、ディルクがいない!」
「あら本当。きっとおじいちゃんに交渉しているのよ。明日、自分もついて行きたいって……」
「変だと思ったんだ。いつもみたいに連れていけって騒がないから……」
「いや、いつも息子が迷惑掛けてすまない」
二人は、両親の前だったと、はっとする。
「これからも娘共々、宜しくお願いします」
「え? あ、はい。お、お任せ下さい」
「勿論です。ね、リズ」
「ありがとう。二人とも」
リズは嬉しそうに言うと、頭を下げた。
そしてディルクは、一時間たった頃戻ってきたのである。
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