復讐者 1章


【1】


 男たちの笑い声がする。

 炎の音が間近でした。

 肉が、身体が焼ける。

 顔を焼いた炎は既に髪に燃え移り、衣類にも赤い舌を伸ばしていた。

 地面に転がり、炎を消そうと試みる。無意識の仕草にも男たちの笑い声が投げつけられる。


 誰かが近付いた。

 身体に新たな衝撃。

 蹴飛ばされたのだと後になってから気付いた。


 身体が浮いた。


 肉が焼ける嫌なにおいと共に、軽く、まるでゴミのように。


 崖下、落下していく。


 伸ばした腕。

 助けを求めたのではなく、崖の上に残された死に行く主に伸ばしたのだ。


 身体が燃える。


 張り出した岩に身体がぶつかった。あとは転がり落ちてゆく。男たちの笑い声はもう聞こえない。


 気付けば崖の下。

 見上げる事も出来ず、仰向けに空を見る。

 雨が降っていた。

 身体中が痛む。

 怪我をしているのだろう。

 それ以上に肉が痛む。炎は消えている。だが、重い火傷を負った身体は雨にさえもじくじくと痛み続けた。


 


 笑う男たちの顔を思い出した。

 空中に、ひとりずつ顔を結ぶ。

 三人。

 忘れない。

 絶対に忘れない。


 三人の顔に続いて、もうひとつの顔が浮かんだ。


 そこで初めて顔を歪める。



「――ご主人様……」


 頭を割られて殺された己の主人の顔を思い出し、掠れた声で呟く。

 雨音にさえ掻き消される声。




 遠く何処かで雷が鳴っていた。


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